書に耽る猿たち

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『哀れなるものたち』アラスター・グレイ|生きることは哀れさを競うようなもの

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『哀れなるものたち』アラスター・グレイ 高橋和久/訳

早川書房[ハヤカワepi文庫] 2024.02.17読了

 

画でエマ・ストーン演じるベラと、圧倒される衣装やセットが話題になっている『哀れなるものたち』の原作を読んだ。旅の道連れとして選んだ本だったのだが、いつも通り旅中ではほとんど読めず、読了するのに随分と時間がかかってしまった。

 

ラ・バクスターとは一体何者なのか

一度命を絶ったベラは、天才医師バクスターの手により蘇る。身体は大人の女性なのに脳は胎児という歪な姿に蘇ったベラは、庇護された元を飛び出し駆け落ちをする。世界を旅した彼女は何を見て何を知り何を感じたのか。無垢で自由奔放で、性への活力に満ちた彼女を見ていると、まっすぐひたむきに生きることの大切さを教えられる。

 

中作や手紙による語りの手法は結構あるが、この作品の構成は度肝を抜く。編者アラスター・グレイ(小説の作者と同名)が、個人出版物や手紙などの資料をまとめあげた歴史書という体をなしている。とはいえ、一筋縄ではいかず、二重三重の重層的な構成が読者を翻弄させる。

 

ともと脚注はすっ飛ばして読み進めることが多いのだが、途中まで読んで「失敗した!」と思った。そもそもグレイが作者でなく編者というのが味噌で、この脚注も含めてすべてが物語なんだよな。

 

語に登場する多くの人物が「哀れな」と修飾される。ベラが見た周りの人はみな哀れで可哀想なのだ。逆にベラのことを哀れに思う人もいる。つまり世界に存在する人間は全て哀れなものなのだ。生きるということはある意味哀れさを競うようなものかもしれない。それがまたこの世の常なのだ。

 

ノクロの医学イラストや肖像画が、奇怪さ・おどろおどろしさを一層際立たせている。なんとこれ、全て著者アラスター・グレイによって描かれているというのが驚きだ。まるでエドワード・ケアリーみたい。ストーリーテラーとしての才能だけでなく、画家としての才能も際立つ。

 

みがわかれるとは思うが、私は結構好きな作品だった。訳者高橋和久さんのあとがきもアラスター・グレイの筆致を思わせる文体のようで、最後まで興味津々に読めたのだ。

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画化に際しまるっとかけられた全面カバーがこちら。最初に写真をUPした元のジャケット(イラストはもちろん著者グレイさんにより描かれたもの)のほうが好きだけれど、エマ・ストーンの豪華で奇抜な出で立ちが目を惹くので一応貼っておく。それにしても、この小説をどうやって映像化したのか気になって仕方がない。