書に耽る猿たち

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『化学の授業をはじめます。』ボニー・ガルマス|自分が自分になるために

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『化学の授業をはじめます。』ボニー・ガルマス 鈴木美朋/訳 ★

文藝春秋 2024.02.21読了

 

章になっていて句点もついているし「なんだかタイトルがださいな〜」と思っていたけれど、全世界で600万部も売れているというこの小説。よくX(旧Twitter)で読む本の参考にさせていただいている方のレビューを見ると絶賛していたので読んでみた。

 

リザベス・ドットと一緒に、笑って泣いて怒って、本当に物語のおもしろさがギュッとつまった小説だった。読み終えると勇気を貰える、そんな(意外と)稀少な本。アメリカのテレビドラマみたいに(そんなに観たことがあるわけではないが)エリザベスをはじめ、登場人物らの大袈裟な動きというか生き生きした様子が伝わってくるようだ。

 

は1950年代のアメリカ。エリザベスはある科学研究所の女性研究者。この時代、今以上に女性が自由に発言できず何かと不都合を強いられていた。仕事でも女性は蔑まれる。そんな時にエリザベスは天才化学者キャルヴィン・エヴァンズと出会う。初めて、一人の人間として接してくれたのだ。2人は恋の化学反応を起こす。

 

分のルーツを知るために、エリザベスの娘マデリンが図書館で牧師と話をする場面がある。自分が自分になるという意味を考えさせられる。

「親戚にすごい人がいるからといって、力があったり賢かったりするわけじゃない。きみがきみになるのは親戚のおかげではないよ」

「じゃあ、どうやってわたしはわたしになるの?」

「何を選ぶか。どんなふうに生きていくかで決まる」(337頁)

 

ートの漕手である産婦人科医のメイソン博士と、先に挙げた牧師ウェイクリーがとても魅力的だ。もちろん、一人娘マッド・ゾット、ハリエットやウォルター・パインも。それに女性を目の敵にする悪役たちも良い味を出している。こういう一見脇役の人って実はとても重要で、物語を物語たらしめているのは彼らのおかげ。

 

ちゃくちゃ読みやすくて、テンポも良くて痛快で存分に楽しめる娯楽化学エンタメという感じ。ストーリー、キャラクターが際立つ。それでもただ娯楽なわけではなくて学ぶことは多くある。仕事をするということ、子どもを育てること、社会で人とどう関わっていくかということ。

そして、自分をどうやって変えていくのか。

 

ょっと長めではあるが前向きになれる良作だ。特に女性が、いや女性がというのはエリザベスに怒られてしまう。どんな人たちにすすめたくなる作品だ。