書に耽る猿たち

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『贖罪』 イアン・マキューアン / だれに、なにを償うのか

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『贖罪』 イアン・マキューアン  小山太一/訳  ★

新潮文庫  2019.2.3読了

 

しばらく気になっていたこの小説、じっくりと堪能できた。「贖罪」とは、自分の犯した罪や過失を償うこと、罪滅ぼし。この小説では、色々な意味での「贖罪」があった。これから読む人のために多くを語れないが、イアン・マキューアンの壮大な仕掛けがある。おそらく読み進めるうちに、その仕掛け自体に気付く人は多いと思うが、それ以上にこの物語そのもののサスペンス性と時に違和感のある描写から、ぐいぐいと読ませる力があるのだ。

大きく4つの章からなるが、この構造にも目を見張るものがある。それぞれの語り口が、読み終えた時にそうだったのか、とストンと腑に落ちるのである。第一章の細かい描写は、人によってはまどろっこしいと感じるかもしれないが、段々と癖になる。

「嘘」が悲劇を呼んだのではなく、「思い込み」から始まったのなら、必ずしも悪ではないのではないか…しかし、嘘も必要な時があるから、何が正しく何が間違いなのかもはやわからなくなってくる

物語の核心ではないが、エミリーのこの思いが響いた。嘘、偽りも、ある人にとっては必要なのだと作者はここでも語っている。

彼女にとって大事なのは、夫がそばにいることではなく、電話で夫の声が聞けることだった。嘘をつかれつづけるというのは、愛とはいえなくとも持続的な気づかいの証拠であって、これほど長いあいだご丁寧に口実を考えつづけるからには、夫は自分のことを大事に思っているに違いないのだ。夫の偽りは、ある意味で自分たちの結婚の重要さを確認するものだった。(第一部 十二より)

海外の小説も読む人には是非お勧めしたい。翻訳物は苦手な人も多いと思うが、現代小説で訳も読みやすいので、手に取ってみてほしい。

映画化されたキーラ・ナイトレイ主演の「つぐない」も観てみたいと思った。