書に耽る猿たち

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『不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲』 石田衣良 / これからは、戦争を知らない人が戦争を伝えていかなければならない

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『不死鳥少年  アンディ・タケシの東京大空襲』  石田衣良

毎日新聞出版  2019.2.24読了

 

14歳の日系アメリカ人時田武と、一緒に住む家族達、そして親友との東京大空襲を含む3日間の出来事がタケシの目線で語られている。広島や長崎の空襲に比べると、東京の空襲は世界にはそんなに知られていないだろう。かく言う私も勿論戦争を知らず、写真、文献、テレビ、映画、本、そして学校で習った程度で、戦争を知る人から直に聞いたことはまずない。作者石田衣良さんも、母親から少しだけ聞いたくらいのようだ。そんな中で戦争をテーマにした小説を書くことは並大抵ではなかっただろう。

人間は悲しいだけではなく、怖くても涙が出る。タケシは不発弾の炎を眺めながら、そう気づいた。けれど、それは骨の髄まで凍るほどの恐怖に、全身をがっしりとつかまれる必要があった。ぬくぬくと居心地のいい布団から叩き起こされ、ほんの一時間ほどの逃避行で何度そんな恐怖に震えたことだろう。戦時下とはいえ、昨日までの暮らしは、ほんとうの戦争ではなかった。飢えても憲兵に殴られても、あれはごく平穏な生活だったのだ。(311頁)

当の戦争とは、焼夷弾が降る中生きるか死ぬかというまで追い詰められるまでわからない。灯火管制が敷かれる中ひっそりと生活したり毎日をひもじい思いでお腹を空かせていることは、まだ到底戦争とは言えないのだ。戦火で戦う軍人も、空襲で逃げ惑う民衆にとっても、本当の戦争とは生きのびるための瀬戸際にいることなのだろう。もう少し経つと、戦争を自ら体験した人はいなくなる。そんな中で、戦争の事実や悲惨さを、体験してはいなくても次の世代に伝えていくことは、難しいが大事なことだ。

田さんの小説はあまり自分には合わなかったのだが、去年ある講座を受けた時の先生が、石田衣良さんと浅田次郎さんの短編小説をえらく称えていた。きっかけがあればまた読んでもいいかなと思っていたところ。装丁のイラストやソフトカバーの気軽さからも手に取りやすかった。いつもの色恋の小説よりは良いと思う。文章も読みやすいし、タケシと同じ世代に、小中高生に是非読んでもらいたい。