書に耽る猿たち

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『不倫』 パウロ・コエーリョ  / 不倫をする側とされた側、悩む人が多いのは

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『不倫』 パウロ・コエーリョ  木下眞穂/訳

角川文庫   2019.3.31読了

 

パウロ・コエーリョさんの『アルケミスト』を読んだのは、読書の楽しさを知り、小説を貪るように読み始めた頃だったと思う。当時は翻訳された作品を読み慣れておらず、読んだ後も日本の小説のように入って来なかったが、壮大な小説だなと思った記憶がある。まるで『星の王子さま』のような。

れ以来、パウロさんの作品はよく目にしていたが、手に取る機会は20年ぶり位だろうか。本作品は、タイトルからして直球な『不倫』なのだが、私が想像していた物語とは少し違った。誰もが羨むような暮らしをしている31歳のリンダが、精神を病み、刺激を求めて背徳の道へ進む。最終的には自ら悟る形になるのだが、不倫の話というより、彼女の心の成長を描いた作品である。訳者によるあとがきにこのようにある。

現代的な問題を掘り下げたいと考えていたコエーリョが、多くの人が抱える悩みとして「鬱」を想定し、読者に悩みについて問いかけてみたところ、圧倒的多数が「配偶者の不倫に悩んでいる」という答えを返してきたという。これで次のテーマは「鬱」ではなく「不倫」だと、すぐに決まった。(訳者あとがき P326)

うであれば、不倫をしているリンダではなく、されている側を描くほうがよりリアリティがあるのではないか?本作品はリンダの視点からしか語られておらず、不倫をされた側の夫の気持ちがわからない。もしかすると、夫には全てお見通しかもしれない。なんとなく、リンダの自分勝手な想いばかりが強調されて見えてしまい、同じ女性なのに共感できないような、読んでいる時も読み終えた後も中途半端な気持ちになった。不倫を描くなら、リンダを取り巻く人達(夫、子供、親、友達、不倫相手やその妻、同僚など)の想いや空気間を感じたかった。ただ、女性の気持ちを終始語り続けるパウロさん、ここまで女性を演じきっているのがすごい。

の『不倫』というタイトル、もちろん何とも思わないけれど、若ければ若いほど手に取るのに躊躇するかもしれない。しかし、淫らで官能的な作品は、朴訥(ぼくとつ)とした真面目なタイトルであるほうが実際多いし、その思いもよらないギャップからより淫らに感じるだろう。