書に耽る猿たち

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『プラスチックの祈り』 白石一文 / 本当であるかを決めるのは自分

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『プラスチックの祈り』 白石一文

朝日新聞出版  2019.4.6 読了

 

盛期の白石さんの作品にはとうていお目に掛かれないだろう、とわかってはいるのに手にしてしまう。ストーリーも読み終えた時の感覚も予想ができるのに読んでしまうのは、自分自身が白石さんの文体が好きで読み心地が良いのだろう。

体の一部がプラスチック化していくという現象。それが繰り返され、そしてそのうち念じてもプラスチック化が叶うようになる。現実離れしたこのストーリー、白石さんが訴えたいのは一体何なのだろうか。これは、自分の記憶と妄想を巡る物語である。

「何が本当かなんてどうでもいいんですよ。本当なんて、そんなものはどこを探してもなくて、本当かどうかを決めるのは全部僕たちの腹次第でね。僕たちがこれが本当だと言えば、それが本当なんですよ」

「たとえ妄想でも全然構わないと僕は思うんですよ。大袈裟に言えばね、この僕たちの人生そのものが妄想みたいなもんでしょう。ある日オギャアと生まれて、どこかの時点で俺は俺、私は私だと信じ込んで、それから先は俺がどうした私がどうしたってそればっかり。(中略)全部、言ってみれば自分の頭で妄想してるだけですもんね」(394頁)

飲み仲間、村正さんの言葉、これが真実をついていると思う。全く同じ会話文が実は小説に2回登場する。白石さんの言いたいのはこれだ、きっと。本当かどうか、真実であるかを決めるのは自分自身なのだ。

ラスチックは、なんとなく無機質で怖いイメージである。海に流れたプラスチック問題や奈良公園で亡くなった鹿のお腹に溜まっていたビニール袋など、プラスチックをめぐるニュースは今や絶えない。スターバックスは2020年までにプラスチックストローを廃止することを決め、またレジ袋を廃止しているスーパーなども多くなってきている。今後、プラスチック容器も減り、地球にやさしい資源をリユースする動きが加速していくであろう。便利なプラスチック(合成樹脂)を生みだした人間が自分の首を絞めている。もしかしたら、白石さんはプラスチック問題にも言及したかったのかもしれない。

ても長い小説で、最初から最後まで記憶と妄想がいったりきたりとつかみにくかったのだが、さすが白石さんの筆力、読ませる力はある。途中で出てくるナポリタンの描写がたまらない。文字だけで、文章だけで食欲をそそられるなんて、いやはや、テレビの食レポは負けていますよ。

 

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