書に耽る猿たち

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『血族』 山口瞳 / 作者の性別にも本のレーベルにも良い意味で裏切られた

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『血族』 山口瞳

P+D BOOKS  2019.4.13読了

 

に読む本を選ぶ時に、何となく、男性作家のものが読みたいとか女性作家がいい、ミステリーにしよう、軽いタッチがいい、時代物にどっぷり漬かりたい、エッセイが読みたい、など誰しも考えると思う。これを手にする時、自伝小説で女性作家か〜、これにしよう!と思った記憶がある。

しかし、違った。やまぐちひとみさん、男性だったのね。「ひとみ」だけでなく、「あきら」「つばさ」のように男性名でも女性名でも使われる名前は少し憧れる。人より特殊でなんとなく個性が際立っているような気がするから。

密にされていた母親の出生を探る自伝小説。ほぼ全てが嘘偽りのない真実であるようだ。謎に包まれた語りで物語が進むため、さながらミステリーであるかのように、読ませる力がある。よくもまあこんなに赤裸々に語れたものだ。ただ、秘密の内容は予想できた。同じ“血のつながり”をテーマにした作品なら、佐藤愛子さんの『血脈』のほうが面白いと思う。

はこのP+D BOOKSという小学館のレーベルを始めて手にした。存在は知っていたが、大きな書店でないとそもそも置いていない。比較的文字も大きいため、岩波文庫のワイド版のように、文庫だとどうしても文字が小さくなるため、活字を大きくして読みやすくした、言ってみれば子供もしくは高齢の方向けのものだと勝手に思っていた。

しかし、違った。

ず、P+Dとは、ペーパーバックとデジタルの略称である。「後世に受け継がれるべき名作でありながら、現在入手困難となっている作品を、B6版ペーパーバック書籍と電子書籍で、同時かつ同価格にて発売、配信する、小学館のまったく新しいスタイルのブックレーベルです」とある。少し前に加賀乙彦先生の『宣告』が同じレーベルから新刊として出版されているのを見て、あぁ、なるほどと思った。後世に受け継がれる名作だもんな。安価だから多分紙質も良くないけれど、雑誌みたいに軽くて持ち運びしやすい。何より名作とうたわれている作品が多いのだからなお良し。