書に耽る猿たち

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『ゴッホの手紙』 上 エミル・ベルナール編 ・中下 J.vゴッホ-ボンゲル編 / 固い握手を送る

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ゴッホの手紙』上(ベルナール宛)エミル・ベルナール編   中下(テオドル宛)J.vゴッホ-ボンゲル編  硲 伊之助/訳

岩波文庫  2019.4.20読了

 

んて素敵な表紙なんだろう。こんな本はブックカバーを着けずに持ち歩きたくなる。ゴッホの絵は、日本人にとっても馴染み深く、毎年のように作品展が開かれるほど人気である。日本人に、好きな画家は?と質問したらベスト3に入るであろう。そんな私もゴッホの絵画は大好きであり、美術展が開催される度に足を運ぶ。何が魅力的なのだろう。暖かな色合いとタッチ、写真以上に内面を映し出すリアリティ、観ているだけで引き込まれる魂が宿っている。この本はゴッホの画・スケッチが挿絵となっており、それを眺めるだけでも楽しい。

ッホは絵画を愛し、自らもたくさんの作品を残し若くして亡くなったが、生存中はその作品が日の目を見る事はなかった。亡くなってはじめて作品が評価される、多くの芸術家がそうである。だから、弟テオへの手紙でも、貧しい暮らしが垣間見える。毎回のように絵の具や画材を無心しているのだ。それに応えるテオ。テオからの返信の手紙が載っているわけでもないのに、テオの兄への献身が見て取れる。ゴッホの心から絵画を愛する心と真面目で繊細な性格が感じられた。膨大な手紙が残っており、それをまとめたことも素晴らしいが、あれだけ多くの絵画を描きながら手紙を書き続けたこと、それは、彼の絵の中だけでは表現できない叫びと孤独を表しているような気がする。

ッホをテーマにした小説は、原田マハさんの『たゆたえども沈まず』が記憶に新しい。ゴッホというより弟テオがメインの話で、日本との深い関わりが表現されていた。手紙にも、「日本」という言葉が散りばめられており、日本に影響を受けており日本が好きだったことがわかる。

緒に住んでいた時期もあり、互いに尊敬し親友でもあったため、よく一緒に取り上げられるゴーギャン。私はどちらかといえばゴッホよりもゴーギャンの絵の方が好きだが、どちらの作品も情熱的で激しく美しい、そして少し儚げである。ゴーギャンをテーマにした小説では、サマセット・モームの『月と6ペンス』、マリオ・バルガス・リョサの『楽園への道』が有名だ。どちらも良い作品なので、未読の方には是非読んで欲しい。

手紙の最後は「握手」で締めくくられる。「さようなら」でも「またね」でもなく、「握手(あくしゅ)」、なんとも素敵な表現である。