書に耽る猿たち

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『バベル九朔』 万城目学 / 万城目ワールドの不思議

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『バベル九朔』 万城目学

角川文庫  2019.4.30読了

 

居ビルの管理人をしながら小説家を目指す"俺”の物語。謎のカラス女が発端となり、バベルの塔さながら、本来は5階までしかないはずのビルの上階部分へとどんどん導かれていく。表紙をめくると著者紹介のところに、「化学繊維会社勤務を経て、雑居ビルの管理人を務めながら小説家を目指す。」とある。あれ!?思わず裏表紙を見返してしまった。漫画でもなく本当に、目をこすり、二度見である。これって万城目さんの経験を元にしているんだな。

回は「カラス」である。いつも万城目さんの作品には一つの鍵となるものがある。「ひょうたん」であったり、「鹿」であったり。そしてその鍵には命が吹き込まれていて、万城目さんの小説を読むと必ずそれを見て、何か考えているのでは?話しかけているのでは?と勘ぐってしまうのだ。ひょうたんは滅多にお目にかかることはないため機会はないが、鹿はそうだった。『鹿男あをによし』を読んだ後、奈良公園の鹿を見て、人間の言葉を話すのではないかとじっくり見てしまい、そしてこの本を読んでいる間は、通勤途中にゴミ漁りをしているカラスをじっと見つめてしまった。もしくは黒い服を着たサングラス姿の女性を探してしまったり。またしても、万城目ワールドの不思議な世界に入ってしまったのだとはたと気付く。

れにしても、ファンタジー全開というわけでもないのに現実離れし過ぎているのではないだろうか。昔の作品は、飛び抜けた世界観の中にも独特の歴史観や深い洞察力が万城目さんから感じられたのに。最近の作品は、私にとっては軽いタッチ過ぎて少し物足りなく感じてしまう。『プリンセス・トヨトミ』や『鹿男あをによし』は、抜群に面白かったのになぁ。