書に耽る猿たち

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『平凡』角田光代 / なんでもない日々の暮らしが一番

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『平凡』 角田光代

新潮文庫 2019.9.7読了

 

の中の読書好きな女性がたいていそうであるように、私も角田光代さんが大好きである。もちろん女性に限らないが、角田光代さん、江國香織さん、小川洋子さん、柚木麻子さん、山本文緒さんらは女性読者が圧倒的に多いだろう。これが、高村薫さん、桐野夏生さん、山崎豊子さんともなると、男女比は違うと思う。女性読者がほとんどの女性作家、男性読者がほとんどの男性作家がいるのは当たり前で自然なことだ。読んで共感できるのは、やはり自分にとって少しだけ活力になる。ビタミンが注入されたみたいな気になるのだ。

れは、表題作を含む6つの短編が収められている。どの作品も、至ってどこにでもいそうな人の、よくありそうな話。それでも、人の芯を突く教訓めいたものを、柔らかい言葉であぶりだす角田さんの文章はとても心地が良い。

編の中で、一番ほのぼのとした気持ちになれた作品は、『月が笑う』。妻に離婚を切り出された康春は、結婚とはこんなものだと、互いに家にいるという空気のような存在がいいのだと思っていた。そして妻もそう感じてくれていると思っていた。が、違ったのである。夫婦になっても、所詮は他人だから、自分が思ってることを相手が同じように感じているとは限らないのだ。康春は、惨めなんだけど、いい人過ぎて憎めなくて応援したくなる。そして、そんな康春の心をほぐしてくれるのが、正月休みに遊びに来た母親だったのだ。母親の過去の話に救われた。悲惨な話なのに、なんだかくすっと笑えて、温かい気持ちになれた。

編どの話の主人公にも、あぁ、わかるなーと共感出来たり、同情出来たり、話の最後にはすっきりとした気分になれた。表題作の『平凡』は、特別な人生でも華やかな世界でもなく、何でもない日々の暮らしが実は一番の幸せなんだと教えてくれる。そう、結局は日々の積み重ねが自分の人生を作っているのだから。そういえば、「平凡」っていう週刊誌、昔あったよなー。

田さんの長編小説はほとんど読んでいるが、一番好きなのは、翡翠飯店という中華料理屋さんを舞台に繰り広げられる家族3世代の『ツリーハウス』だ。これは女性も男性も楽しめるからまだ読んでない人にはオススメである。