書に耽る猿たち

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『葬儀の日』松浦理英子|独創的な感性と世界観

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『葬儀の日』松浦理英子

河出文庫 2021.7.26読了

 

なり前に新聞だかの書評を読んで気になり、手帳の「読みたい本リスト」に書いていた。先週手に入れて、ようやく今自分のなかで読み時になった。松浦理英子さんの本は初めて。講談社主催の「群像新人文学賞」の選考委員の1人が松浦さんだ。昨日読んだ『貝に続く場所にて』が今年の同賞受賞作である。

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式で「泣き屋」という職業を勤める私は「笑い屋」を職業とする老女と出会う。相反する2人なのに何故だか離れられなくなる。昔TVドラマで観たサスペンスものを思い出した。悲しみを表現するために葬儀屋の社員か家族に涙を流す役がいた。本当にそんな職業ないしは役割が有るのだろうかと、子供ながらに疑問を持つと同時にショックを受けたのを今でも覚えている。

はこの作品、自分の内面の二面性を描いたもののようだ。一見180度離れたものだが実は重なる部分があり切り離せないもの。文体も漂う空気も、終始悪寒がするようで、どんなミステリーやホラーよりも恐ろしく一度読んだら忘れられない。結局最後はどうなったのか不明で難解な作品であった。

 

題作の他に2つの短編が収められている。『乾く夏』は、狂気を持った美しい彩子とその友達幾子の危うい関係性が描かれている。『肥満体恐怖症』は、顔やら性格やらは度外視で「肥満体の女性」というものに嫌悪感をもつ大学生の話。表題作に比べてこの2作はかなり読みやすい。

れでも松浦さんの書くものには常に不穏な空気と迫真に迫る人間の本心が垣間見えるかのようだ。独創的な感性と世界観を持った方である。こういう考えを持つ方も世の中にはいるし、小説家でいて欲しい存在だ。松浦さんがこれらを書いたのはなんと20歳くらいというから驚きだ。大学生でこんなことを考えていたとは。