書に耽る猿たち

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『人類最年長』島田雅彦 / 近代日本の生き証人

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『人類最年長』島田雅彦

文藝春秋  2019.10.8読了

 

るで、日本の近代160年史を読んだような感覚だ。1861年にこの世に生を受けた宮川麟太郎が、時代と共に生き、159歳になって病院に運ばれたことをきっかけに、その時担当になった看護婦に人生を話すというストーリーである。

京を中心にして、めくるめく激動の日本を生きた彼は、歴史の生き証人であるかのごとく語り始める。彼がこうなったのは、中国のヘシェン長老から精霊が乗り移ったからだろう、というエピソードがあるが、そもそも生まれた時から成長が遅かった彼はこうなる運命だったのだ。宿命とも言うべきか、人の寿命は生まれた時から決まっているのだ。普通に考えたらあり得ない人生だけれども、輪廻転生という考えもあるし、それがただ1人の人に備わったというだけ。一族の3代記、4代記のようなものを読んでいるのと変わらない。

んな人、いるわけないのに、と思いながらも、島田さんのいつもの滑らかな語り口にまんまと騙されていつのまにか半分信じるている自分がいる。『傾国子女』を読んだ時のことを思い出したが、島田さんは回想の手口で物語を進めるのが本当に上手いと思う。

争も震災も、恐慌もオリンピックも経験した彼は、果たして幸せなのかというとそうでもない。同じ時代を生きた妻や子供が我れ先にと亡くなってしまうのだ。自分はどうしても死ねない。この手の話を読むといつも思うが、不死身、不老不死は決して望むべきものではない。むしろ拷問のようである。長く生きたからといって、幸せとは限らない。むしろ、長さではなく、どう太く生きられるかどうかの方が大事だ。限りある人生だから、瞬間瞬間をもっと大事にしなくてはいけないということを改めて感じた。

もしかしたら、街中や電車の中で見かける眼光鋭いあの人は、不老不死の麟太郎かもしれない。実は、こんな人が周りにいるかもしれない。