書に耽る猿たち

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『ポトスライムの舟』津村記久子|会社で働くということ

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『ポトスライムの舟』津村記久子

講談社文庫 2021.12.19読了

 

題作と『十二月の窓辺』という2作の中編小説が収められている。『ポトスライムの舟』は、2009年に第140回芥川賞を受賞。先日、今度の芥川賞直木賞の候補作が発表されていたが、年に2回もあるのはやはり多いよなと思う。もっと権威ある特別感を出したいと個人的には思うのだけど、多くの人が本に興味を持つためにはこの方がいいんだろうなぁ。

 

『ポトスライムの舟』

29歳のナガセは、工場で契約社員で働く傍ら、カフェやパソコン教室の職員、そして内職をして生計を立てている。いわゆる派遣社員として生きる女性だ。

現代社会で働くということ、女性が誰かに頼らずに生きていくことについて考えさせられる。ナガセは冷静に、かつどこか飄々と他人のことを語るかのように自身を分析する。周りを固める人物たちがあたたかく、人間はやはり1人では生きられないんだなと思った。

ポトスライムは水さえあげればすくすくと成長する。人間も、何かの養分さえあれば前に進める。たくさんのものなどいらない。多分、なにか一つだけあればあとは自分次第なんだ。

 

 

『十二月の窓辺』

これも津村さん得意のお仕事小説だ。どうやら『ポトスライムの舟』よりも前に書かれた作品のようだが、こちらはどんよりと暗い、いや、ヤバい会社のことが描かれている。

パワハラモラハラ満載の会社で働くツガワが抱える試練と悩みは想像するだけで辛い。何かと話を聞いてくれる先輩のナガト以外は、Z部長、V係長、P先輩のように、名前すら与えられず記号のような存在。結構救いようもない話で大丈夫かなと心配になってしまうが、最後にはちゃんと蹴りがつけられる。

確か津村さんが新卒で最初に入った会社はブラック企業だったというようなことを何かで目にした。その時の体験を思い出しながら書いたのかもしれない。ツガワの想いが妙にリアルで迫真に迫っている。

 

 

れにしても、津村記久子さんの文章は肌に合うから読んでいてとても落ち着く。例えストーリーがおもしろくなかったとしても(今のところそういう作品はないのだが)、この読み心地の良さはもはや自分との相性としかいいようがない。こんなふうに読み手を惹きつける文章を書けるのは羨ましい限りだ。

 

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