書に耽る猿たち

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『つまらない住宅地のすべての家』津村記久子|ご近所付き合いも悪くはない

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『つまらない住宅地のすべての家』津村記久子

双葉社 2021.6.16読了

 

本のほとんどの地域で、多くの家の集まりがある。それが密集すると一戸建てなら住宅地、マンションなら団地になる。去年読んだ柴崎友香さんの『千の扉』を思い出した。柴崎さんの作品はある古い団地の話だったが、津村記久子さんのこの小説は一戸建て(多分建売住宅)のお話である。

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の作品の舞台は、築30年ほどの戸建が建ち並ぶある住宅地の一角。ちょうど10戸が並ぶ10世帯の家に住む人たちはそれぞれ日常をつつがなく暮らしている、ように見える。というのも今はマンションだけでなく戸建でも隣に住む人のことはほとんど知らないことが多く、隣人をわかっていないからだ。

る日、横領の罪で刑期を務めている女性が刑務所から脱走し、この街の方角に逃げているというニュースを目にする。もちろん、みんなそわそわし出す。これをきっかけに隣人と接点を持つようになっていく。

まらない住宅地、つまり、見た目は何の変哲もなく個性のない家でも、その箱に住む住人はそれぞれドラマチックである。それなりの地位にならなくても、報道されるような有名人ではなくても、その人にとっての人生はなかなか波瀾万丈だ。それが人間の生活、人生なんだよなぁ。

れから何か事件を起こしそうな人でも、日常の些細な出来事や少しの親切心だけでそれを思い止まることができる。ネットでの人との繋がりは否定されがちだけれど、引きこもる寸前の人にとってはSNSを通じた友達から力をもらえることもある。そんな風に、わずかばかりのビタミンをもらえて、そして近所付き合いも悪くないなと思わせる作品だった。

村さんは芥川賞作家というだけありきちんとした文章と巧みな構成で読ませる筆力がある。逃亡犯の行方も気になり、少しミステリ要素もある。津村さんは、どこにでもいる普通の人を書くのがうまいなと感じた。常にまわりの人間を鋭く観察し、どんな人にもあるのになかなか見つけにくい長所を津村さんなら見抜けるんだろうと思う。

くまwebで連載されている津村記久子さんの「苦手から始める作文教室」というサイトをちらっと覗いてみたら、「作文を作るということの意味」「どうやったら文章を上手く書けるのか」がわかりやすく書かれていた。そして、自分の作った文章でお金を稼ぐということは大変なことだよなと改めて思った。

もし気になる人がいたら参考にどうぞ↓

http://www.webchikuma.jp/articles/-/2380

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