書に耽る猿たち

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『昏き目の暗殺者』マーガレット・アトウッド / 皮肉たっぷりの老女アイリスの回想記

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『昏き目の暗殺者』上・下 マーガレット・アトウッド 鴻巣友季子/訳

ハヤカワepi文庫 2019.10.26読了

 

10月10日に、今年のノーベル文学賞が発表された。去年の分と合わせて2名、ポーランドの女性作家オルガ・トカルチュク氏と、オーストリアの男性作家ピーター・ハントケ氏だ。比較的大きな書店に行ったのだが(一応神奈川県のターミナル駅)、あれ、2人の作品が置かれていない!?何度も行ったり来たりして、ようやく【2019年ノーベル文学賞】のコーナーを見付けたのだが、ほんのわずかなスペースで、しかも2人の作品ともに文庫本は置いていない。気分が萎えてしまった。受賞者が国内国外問わずとも、毎年、受賞者発表後は大きく取り上げられるのに。これからなのかな、もしくは、ほとんど和訳されていないのかしら。

いうわけで、受賞候補だった1人、カナダの女性作家マーガレット・アトウッド氏の『昏き目の暗殺者』が目に止まったため購入。まずこの「昏き」は「くらき」と読む。「暗い」は光が少なく見えないこと、「昏い」はほんのり光があり僅かに見えていること。他に「昏い」には、不幸な感じ、その分野の知識が不足していること、愚かである等の意味がある。この作品は、作中の小説、『昏き目の暗殺者』を巡るミステリでありながら、ある家族の年代記である。

82歳の老女、アイリスが過去を回想している場面がメインだが、その中に何重にもなる構造があり、最初は話に入り込めなかった。特に、妹ローラの作中小説の部分は、いわゆる、直訳した海外文学の文章のようで、なんだか読みにくい。それでも上巻の半分くらいまで、しんどいながらも読み続けると、段々先が気になるようになってきた。

れにしても、このアイリスは性格に難があり過ぎだ。両親のことも妹のことも、家政婦も、そして結婚した夫やその妹に対しても皮肉たっぷりで非難めいている。一体誰を信じてるのかと思うほど歪んでいるのだけれど、それがこの小説たらしめているのだ。最後まで読み終わると、途中の場面がそうだったのかと納得でき、繋がっていく。「昏き」は全ての意味に当てはまってるような気がする。鴻巣さん、新潮文庫の『風と共に去りぬ』の訳は個人的に良かったのだけれど、今回の訳は少し読み辛かった。

外の現代作家は、ヒット作や、話題に上ったものしか知る術がほとんどない。ノーベル賞を受賞したとなると、手に取る良い機会になる。私は、村上春樹さんは今後しばらくはおそらく受賞しないのではないかと思う。何故なら、2年前に受賞したカズオ・イシグロさんの作品になんとなく似ている気がするから。あ、でも数年前に受賞したトルコのオルハン・パムク氏の作品の雰囲気とも似ている。同じようなテイストが選ばれるのか…。