書に耽る猿たち

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『プラットフォーム』ミシェル・ウエルベック / 虚無を抱えて生きる

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『プラットフォーム』ミシェル・ウエルベック  中村佳子/訳

河出文庫 2019.11.9読了

 

店でミシェル・ウエルベック氏の本をたまに見かけるが、こんなに有名な人だったのか。そして、なかなか面白い本を書く人だな、さすが現代ヨーロッパを代表する作家だと感じた。名作と名高い『素粒子』を最初に読むつもりが、書店になかったため、この『プラットフォーム』を読んだ。

の作品がスキャンダラスで問題作とされているのは、反イスラム的な内容がムスリム信仰者からの反感を買ったことと、物語の核となっている売春観光にある。現実問題として考えにくいが、旅行会社の商品として、セックス観光を推奨して、それがヒット商品となる。ぶっ飛んでるな〜。

説の3分の1は、性描写になっているように思う。表現もあからさまである。ただ、イヤラシさやポルノ的な感じがないのは、翻訳物だからなのか。いや、それ以外の3分の2が人間の本質を描いているからだと思う。

生に虚無を感じていたミシェルは、バンコクツアーに参加しそこで出会ったヴァレリーと恋人となり、しばし生と性の喜びとともに人生を謳歌するが、最後はまたしても虚無に帰る。

の虚無状態、実はほとんどの人間に当てはまるのではないかと思う。ただ生活をする、ただ食べて寝て、たまに楽しみ悲しみはするけれど、たいていの時間は虚無。全ての物事に対して意味を感じられないようになる虚無感。ミシェルが特別なのではなく、むしろ万人のことを指しているのだとウエルベック氏は言っている(主人公もミシェルという名前だから、ここではあえて著者の意味でウエルベックと表す)。人々は虚無を抱えて生きるのだ。

まり感じたことのない読後感だ。ストーリーが上手いとか、あっと驚く展開があるわけでもないが、読んでいたいと思える空気感。他のウエルベック氏の作品も読んでみたい。作中の舞台、タイには2度観光で訪れたことがある。まるでガイドブックのように、街並みやバンコクの生活感、観光名所が連ねられており、懐かしくなった。今もなおエネルギーに満ち溢れているタイにまた行きたくなった。