書に耽る猿たち

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『セロトニン』ミシェル・ウエルベック|孤独を選ぶ人もいる

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セロトニンミシェル・ウエルベック 関口涼子/訳

河出書房新社河出文庫] 2022.10.3読了

 

絵のようなグリーンの挑発的な表紙が目立っていた単行本とはうって変わった印象。文庫本はなかなかカッコいい表紙である。色合い、タイトルと著者名のバランスが個人的にとても好みだ。

ロトニンとは、脳内の神経伝達物質のひとつで、精神を安定させる働きをするものである。セロトニンが低下すると、攻撃的になったり不安感が現れる。タイトルからしウエルベックさんらしいなぁ、なんて思いながら読み進める。

き合っている日本人女性ユズの秘密を知ったことから、主人公フロランは「蒸発者」となる。そもそも何故この人物に日本人を選んだのだろう?というのがまず気になった。ウエルベックさんは日本人に対して何かこのような隠微な、卑猥な、オタクめいたイメージを抱いているのだろうか?かくして蒸発者となったフロランは、過去に愛した女性たちを懐かしみ想いを馳せる。

由を求めることはイコール孤独を求めていることなのか。自ら幸福を求めない人間もいるんだなと思った。そもそも幸せなんて測れない。本人の感じ方による。孤独、絶望、寂寥感、そして虚無を帯びているフロラン。人間の本来の姿はひょっとしたら自ら孤独を選び死に至るものなのだということを見せつけられた気がする。

の先、この小説の内容が自分の心に残るか残らないといったら、たぶん忘れてしまうだろう。異性からすると特にフロランの考え方、嗜好はちょっと理解しにくい部分がある。しかし、読んでいる間は圧倒的におもしろく、何故か美しく感じ、物語世界にのめり込んでしまう。ウエルベックさんの高い文学的センスを感じた。まぁ、やっぱり変態でイッちゃってるけど。だからこんな作品が書ける。

エルベックさんの作品は『プラットフォーム』を読んで圧倒され、その後『服従』を読んで以来の3作目だ。現代フランス作家の鬼才たる存在は健在で、彼の独特のストーリーと文体、卓越したセンスは読む価値がある。既読作品のなかでは今回読んだ『セロトニン』が一番読みやすいと思う。未読の作品はまだまだあるので、また折を見て。

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