書に耽る猿たち

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『犯罪者』太田愛 / 脚本家が小説を書くとこうなる

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『犯罪者』上下 太田愛  ★

角川文庫 2019.11.14読了

 

近、文庫本に掛けてある本の紹介帯が本全体を覆うようになっていて、カバーが二重になっているようなものをたまに見かける。出版社が作っているものもあれば、書店独自のものもあるようだ。私は全面を覆うのは正直反対なのだが、―ここではその話は置いておいて―、この太田愛さんの『犯罪者』も、そういった形で去年よく書店で見かけた。あまり気に留めていなかったのだが、この太田愛さん、テレビドラマの「相棒」や「トリック2」の脚本を手がけているそうだ。脚本家が書く小説、たまには読んでみるか。

るでテレビドラマのようだ。映画ではない。登場人物が映像の中で動いているようで、急激な展開も映像だとしっくり来る気がする。週1の連続ドラマでは、翌週もいかに観てもらうか、続きが気になるように1話ごとの終わらせ方が大事である。この小説においては、章ごとの終わり方がさすがだ。次が気になるように出来ている。これも脚本家だからこそのなせる技なのか。

学的かといえばそういうわけでもなく、自分が好きか嫌いかといえば普通なのだけれど、エンターテイメント性は抜群である。超ド級エンタメ作品!読み進めていて、先が気になると思える小説であることは間違いない。この4日間ほどは、時間さえあれば読み耽っていたように思う。

大寺駅で無差別殺人が起こり、そこから始まる息つく暇もない怒涛の展開だ。無差別殺人のターゲットになりながらも、1人生き延びた建設現場で働く修司、若手刑事相馬、相馬の友達フリーライター鑓水(やりみず)、この3人が主人公である。そして3人の掛け合いが絶妙だ。初めは、出てくる登場人物が多いのと場面の移り変わりが激しすぎて、もう少し落ち着いて読みたいのに(笑)と戸惑いもあったが、逆に気になって落ち着くことが出来ず、どんどん深入りしてしまった。伏線が多すぎるし、一体どんな展開になるんだろう?と。

大企業の確執、政治、拡大する幼児への病気、家族問題など取り扱うテーマがてんこ盛り過ぎるのだけれど、タイトルにある『犯罪者』、1人の犯人のことではなく、多くの犯罪者が絡み合っている。そして現代社会の様々な問題を取り上げているから、自分の身近ではないけれど、テレビなどから耳にする情報に近いので、なんか起こり得そうだと思わせる。何はともあれ、文学性とや読んでいる空気感とか、読書感の問題ではなく、ストーリーが単純に面白かった。意外とこういう作品は最近少ないように思う。

田さんはこれが小説デビュー作だが、初めからこんなものが書けるなんてあっぱれ!だ。脚本家だからなせるのか。いやいや、脚本家でもヒット作を産み出す名脚本家だからだろうなぁ。同じシリーズであと2作あるようだから、近いうちに読むと思う。それから、これはテレビドラマでも是非観てみたい。