書に耽る猿たち

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『トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇』トルストイ/人間の本質を見極める

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トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇』トルストイ  中村白葉/訳

岩波文庫  2020.1.2読了

 

ルストイの晩年の短編が収められている。長編はほとんど読んでしまっているため、最近は短編を読むことが多い。ここにある5編はどれも数十ページ程で内容的にも読みやすい。スケールが大きく登場人物が多い『戦争と平和』に比べると同じ作者とは思えない程だ。

故や病気など何らかの事情がない限り、人間は産まれた時は赤ちゃんで、その後少年期を終え青年期壮年期老年期へと進み死に至る。たいていの人が青年期壮年期に大きな成功を収めたり、人間として熟すことが多い。そこからは産まれたの赤ちゃんに少しずつ戻っていくかのように、出来ることが徐々に減っていく。老人が赤ちゃんのようになるという例えはまさにそれだ。

ルストイの作品もまさにこうであるかのようだ。晩年になって、誰にでもわかりやすい言葉で読みやすい民話を創作した。真に大事なことを伝えるには、誰もが読めるものでなくてはならないから。それにしても登場人物が子どもでなく大人や老人が多い気がする。人はなんのために生きるのか、何が大事なのかを説くのは、経験を積んだ大人でないとわからないからだろうか。人間の本質を探るトルストイらしい民話集であった。

波文庫によくある古い活字体は、私としては味があってわりあい好きなのだけれど、どうにも訳が古い感じがした。印刷技術としても綺麗とは言えず字も小さいから、子どもにはなかなか読みにくいかもしれないと思う。あすなろ書房からは、もっと新しい訳が出ているからそちらのほうが読みやすいのかもしれない。

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