書に耽る猿たち

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『ワインズバーグ、オハイオ』シャーウッド・アンダーソン|ある街での人々のいとなみ

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『ワインズバーグ、オハイオ』シャーウッド・アンダーソン 上岡伸雄/訳

新潮文庫 2021.10.25読了

 

から読みたかった小説である。期待していた通り、なかなか好みの作品であった。大切に、じっくりと、耳を澄ませて、街並みと人物を想像しながらゆっくりと読み耽った。

ハイオ州にあるワインズバーグという架空の街を舞台としたそこに住む人々の群像劇である。地元の若手新聞記者ジョージ・ウィラードは、この街に住むちょっと変わった人々に耳を傾ける。20を超える短編が積み重なる連作になっているが、ウィラードがほとんどに登場することで一貫性が生まれている。

者の上岡さんは「グロテスク」な人々を「いびつな」人々と訳している。グロテスクは既に日本では一つの単語になっており怪しげな雰囲気があるが、ここでいう変わった人々は滑稽で愛おしいニュアンスがあるために「いびつな」としたようだ。

分の「手」が勝手に動き出しおかしなことをしてしまう男性、真夜中に急に家から飛び出し全裸で走り出す女性。ある意味狂気の沙汰にみえるかもしれない多くのキャラクターたちだけど、表に出さないだけで、誰にでもどこかいびつで変なところはあるのではないか。

く、犯罪を犯してしまうかどうかは紙一重なんていうけど、「変なことをしてしまう」「周りに変な人にみられる」ことなんてもっとあり得るべきことなのだ。だから、ワインズバーグに住む人々が変わっているわけではなく、どんな街も同じなのだと思う。誰もが持つ「弱い部分」を認め理解し合い生きていくのが人間なのだということ。

かが、これを読んで堀江敏幸さんの『雪沼とその周辺』に雰囲気が似ていると言っていた。うん、確かに。ある街を主人公にした群像劇だからだろうし、優しさに包まれた空気も類似しているように思う。エリザベス・ストラウトさんの『オリーヴ・キタリッジの生活』にも似ている。私にとってこの2作は大切な作品であるから、この『ワインズバーグ〜』も同じように好きになるのは必然だ。

説を読むと、宮本輝さんの『夢見通りの人々』も街を通して人々を描いた作品であるそうだ。アンダーソン氏はおそらく世界中の作家に影響を及ぼし、この手法を広めていった。あるひとつの田舎町に焦点を当てて、そこで繰り広げられる暮らし、それはもう私たちが住む街と同じように息づいている。

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