書に耽る猿たち

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『若冲』澤田瞳子/奇抜で美しい独特の絵を描き続けた

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若冲』澤田瞳子

文春文庫 2020.1.11読了

 

年前に上野にある東京都美術館で開催された「若冲展」、行きたいと思っていたのだが、4時間も並ぶのは耐えきれないなと結局行かずに終わってしまった。数点は何かの展示会で観たことはあるが、若冲氏の作品を飽くまで眺めたり、壮大な作品を生で観る機会はまだない。

若冲氏の絵がどんなものなのかは誰しもが知っていると思う。名前は知らなくても、見たことは必ずあるはず。鮮やかな色合いで描かれた濃密で精緻な絵。人物の絵はなく、ほとんどが鳥や動物、植物など。中でも鳥の作品が多い。観る者を魅了する、力強く熱い絵画なのだが、私は少し不気味にも感じる。

の小説は、若冲氏の生涯について事実を元にしたフィクションだ。どこまで真実かはわからないが、何故あのような絵が生まれたのか、どんな人生だったのかを知るには良い入門書だと思う。小説だからすらすら読める。

冲氏は生涯未婚だとされていたが、澤田さんは妻がいたと解釈している。京都の青物を取り仕切る「枡源」という店を継いだ源左衛門(若冲)のところに嫁いだ妻は、今で言う嫁姑問題に悩み自殺をする。源左衛門が守ってあげられなかったという責任もある。しかしそれ以前に絵のことしか頭になかったのだ。

んな源左衛門は、40歳の時に店を退く。いつしか有名になり若冲の名で活躍する。85歳で死ぬまで絵を描き続けた。彼の多くの作品は、優しいとか明るい絵とは決して言えない。しかし、その絵には愛がこもっているのだと。若くして亡くした妻のことを想う気持ちが。

れを読み終えたから、今後若冲氏の絵の見方が変わりそうな気がする。澤田さんの作品を読んだのは初めてである。『若冲』というタイトルだが、腹違いの歳の離れた妹、志乃が主人公である。志乃もまた、本当に好きだったのは、弁蔵でも嫁いだ先の夫でもなく、きっと若冲だったのだろう。

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ころで、美術館っていつからこんなに混むようになったんだろう。7~8年前までは、余程人気の展示会でない限り、30分以上待つなんてことはなかったのに。今はどんな展示会でも人、人、人で溢れている。みんな、そんなに芸術に興味あったのか?と疑うほど。おそらく、SNSの発展とともにこうなってしまったんだろうけれど。本当は、ゆっくりじっくり鑑賞したいのに。とは言っても、独り占めする出来るわけもなく。芸術鑑賞は誰しもに平等な機会がなくてはならないから仕方ない。いっそのこと、都心部では開催せずに、地域の復興のためにも地方都市でじゃんじゃん開催して欲しい。