書に耽る猿たち

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『恥辱』J・M・クッツェー/都会と田舎の対比

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『恥辱』J・M・クッツェー   鴻巣友季子/訳

ハヤカワepi文庫  2020.3.22読了

 

ーベル文学賞を受賞しているが、まだ読んだことのないオランダ系南アフリカ人の作家さんだ。本作『恥辱』は書店でたまに見かける。恥辱とは、辱しめを受けること。52歳の大学教授が、教え子と関係を持ち、訴えられて田舎に引っ込むというどうしようもない男性の話なのだが、これが英国文学賞で最も権威のあるブッカー賞を受賞している。

々と語られるデヴィッドの行い。転落の物語だ。しかもこの教授、何をしたかというと、教え子へのセクハラ、レイプ疑惑。この手の過ちは1番恥ずかしい、まさに恥辱である。日本でも、電車での盗撮とか痴漢は本当に恥ずかしさの極みだと思う。

イトルと表紙のイラストから想像すると、見るに(読むに)耐えられないようなシーンが多いのかと思っていたが、一人称ではなくどこか他人事のように語られるため、読んでいる私自身も感情移入せず、傍観しているような感じだった。

ヴィッドは弁解もせずに、自分の罪を認める。教授職も失い、最初の妻との間の子であるルーシーの元へ行く。ルーシーは都会に住むデヴィッドとは正反対に、田舎で農作物を作り、動物を飼い、自給自足の暮らしをしている。

白いのが、教え子へのせセクハラを訴えられた時にはあっさり認めたデヴィッドなのに、田舎の生活には文句を言ったり、周りに住むおしゃれにも無頓着な人物に嫌悪感を持つ。都会と田舎の対比がこの小説のテーマなのだろうか。

の後押し入り強盗が入り、ルーシーへのレイプが発覚する。デヴィッドはそれに対し怒りを覚えるのだけれど、自分がやったことと変わらないのではないか?それに気付かない彼がむしろ滑稽である。普通なら嫌気がさすこの主人公なのだけれど、何故か憎めないところがあり、私も自分自身の気持ちがよくわからなくなったという不思議な読後感だった。