書に耽る猿たち

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『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン/不思議な図書館とそこで始まった愛

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『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン   青木日出夫/訳

ハヤカワepi文庫  2020.4.11読了

 

上春樹さんが多大なる影響を受けたというリチャード・ブローティガン氏。私は彼の本をまだ読んだことがなかったのだが、1番読みやすそうな本作をまずは選んでみた。表紙の絵が素敵だ。本自体に巻き込んである所にも、絵が続いている。

紙の絵から想像するように、小さな図書館が舞台である。図書館といっても、ここは普通の図書館ではない。誰でも(人生の敗者が、と解説には書かれている)が書いた本を持ってきて、図書館員が帳面につけ、本を書いた人が好きな棚に置いていく。誰にも貸し出されず、読まれることのない本。その管理を24時間行っているのが「わたし」である。そこに、美しすぎることを不幸に感じているヴァイダという女性が現れて、似た者同士と感じた二人は恋に落ちる。すぐさま妊娠してしまった彼らは堕胎を決めることに。そんなようなお話。

ぐに思ったのが、村上春樹さんの小説にそっくりだということ。ストーリーや、主人公の男性、相手の女性、文体、そして何よりも漂う雰囲気が。ポール・オースターさんも似ているのだが、ポールさんはもう少し込み入っているというか複雑な感じ。リチャードさんは軽いタッチである。それでも、簡潔であっさりとした文章の中に、人と人との関係の曖昧さや優しさのようなものが漂っている。

ちろん、村上さんが影響を受けたということだから、村上さんのほうが書いているうちにリチャードさんに似てきてしまったのだろう。真似したわけでもなく、憧れている人に近づきたいと思っていたらそうなるのが普通。ブログでも、あの人のことが好きなんだな~と思わせる方が多くいる。

表紙の作者紹介にも解説の中にもあるが、リチャードさんは銃身自殺を遂げたとのこと。作家の自殺は本当に多い。解説を書いている作家の高橋源一郎さんの「作家は文筆を生業にしているのに遺書を残していない人が多い」という指摘に、なるほど確かにそうだと思った。生きているうちは、自分の想いをこれでもかとばかりに書き連ねた人も、自分の死については無言になる。