『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 三浦みどり/訳
岩波現代文庫 2020.4.12読了
非常に重たい内容だった。読み終えた時に、ようやく終わったとホッとした。 途中から読み進めるのが辛くなってきたのだ。この本は、著者が500人以上のソ連の元従軍女性を取材し続け、彼女たちの証言をまとめた記録書である。
女の人がこんなにも前線で戦ってるなんて知らなかった。戦争で女性が働く場面といえば、野戦病院での看護婦や軍医、食事を準備する人だけだと思っていた。しかし、ソ連では前線に従事していた人がこんなにも多かったのだ。しかも、自ら志願して。看護や通信係ではなく、銃を敵に向け撃ち、戦う(人を殺す)ことを夢見て。
しかし、女性ならではの困難にも多く直面する。特に、勝利の喜びを男性と共にわかちあえないのがきつい。男性は勝利の勲章を掲げ、英雄になり、理想の花婿になるのに、女性からは勝利が取り上げられてしまうのだ。 戦争体験をひた隠しにしなくてはならなかった。なかったことにしなくてはいけなかった。スヴェトラーナさんがこのように、女性たちから真実を聞き、一つの作品にしたのは大変意味のあることだ。これが処女作だが、その後もいくつか本を執筆し、2015年にはノーベル文学賞を受賞する。
日本でこの本が有名になったのは、小梅けいとさんという方が描いた同名の漫画本だ。この本をコミック化したことがまず素晴らしいと思う。戦争を知らない若い世代が、文字で埋め尽くされたスヴェトラーナさんの本を読むのには、やはり読者を選んでしまう。漫画にすることで少しでも読む人が増えるのであれば、本当に良い試みだ。
私も小さい頃は戦争の話が嫌いだった。小説も映画も。特に、映像として嫌でも頭の中に入ってくる映画は苦手だったと言ってもいい。『はだしのゲン』『火垂るの墓』は悲しく辛くなるばかりで好きでなかった。『プライベート・ライアン』は映画館に観に行ったけど、銃撃戦が多くへとへとになった。「ダダダダダ・・・」とか「ボウ、ボウ」という銃や鉄砲の音を聞くだけで逃げたくなった。それでも、戦争を描いたものは記憶には残る。
今でも遠くのどこかの国では戦争は起きているが、どこか他所事だ。新型コロナウイルスがひとつの戦争だと言う人もいるけれど、人が人を殺すものではないから、戦争とは異なると思う。戦争はあってはならない、人間にとって何も益がない。戦争を知らない人たちのために、戦争が書かれたものを残していくことは非常に意味がある。トルストイの『戦争と平和』は私にとって生涯読み続けていく大切な小説だ。
戦争によって人間が得たものといえば、「生きることの喜び」や「人のために尽くす」ことが挙げられる。それを忘れないために、そして生きるための自分の糧とするために、私はこれからも戦争作品を読み続けるだろう。