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『フランス組曲』イレーヌ・ネミロフスキー|未完の大作と呼ばれる作品は感想が難しい

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フランス組曲』イレーヌ・ネミロフスキー 野崎歓・平岡敦/訳

白水社 2022.2.22読了

 

の小説は、著者のイレーヌ・ネミロフスキーさん死後、長女が預かっていたトランクの中から見つかったもので2004年に出版された。死後60年近く経ってからである。発売されるや否や多くの反響を呼び、同名の映画も大ヒットした。もともと5部構成にしようとしていたものであるが、残念ながら2部までしかない未完の作品である。

 

1部は「六月の嵐」と名付けられている。第二次世界大戦下のフランスで、ドイツ軍の砲撃から逃れるパリ市民の姿が章ごとに人物の視点を変えて語られる群像劇になっている。これは戦争ものなんだなと改めて思い知る。逃げる市民たち。高齢者も、若者も、子供も、善人も、悪人も。戦争下ではみな生きたいと願う1人の人間であり、善人が必ず報われるわけではなく、狡猾でうまく立ち回る人が生き残るという不条理がやり切れない。 

説というよりも、実際にあったことを伝聞して書いたようで、淡々と綴られている。ペリカン家の人々を中心に、多くの市民たちの姿が描かれているが、私はペリカン家の雄猫アルベールの視点で書かれたわずか4〜5頁の章がとても心に残った。人間と比べて進んだ嗅覚で獲物や腐敗臭を感じ、這うような低い視線から人間とは別のものを見る。人間以外も生きるために必死なのだ。

 

2部は「ドルチェ」と題されている。1部とは全く異なる別物かと思っていたが読み進めていくと重なり合うことに気付く。ドイツ軍の捕虜となった夫・ガストンを待つリシュル、夫のことよりも負傷兵ジャン・マリに心を寄せるマドレーヌの心情を中心とした「愛」に満ちた印象が強い。

イツ兵とフランス人女性の恋愛というタブーな領域が、複雑な心情で繊細に描かれていた。また、ガストンの母親が不在の息子がまるで近くにいるかのように振る舞う場面がある。母親が息子を愛おしむ姿に、無償の愛を感じた。

 

ランス文学を久しぶりに読んだ。翻訳ものかつ分厚い単行本にも関わらずとても読みやすかった。名前や地名がカタカナなだけで、日本人が書いたとしてもわからないほど。「フランス版・戦争と平和」と言われているから、少し期待し過ぎたかなと感じる。

しイレーヌさんがアウシュビッツで死なずに生き延びていたら、第3部以降をどのようにしたのだろう。未完の大作ってどうにも感想が難しい。出来れば完結した壮大な組曲として読みたかった。巻末にはかなりの頁を割いて著者の資料が収められており、イレーヌさんがこの作品に相当な想いを抱いていたとわかる。

 

近読んだ戦争ものは、ロシアとの戦いをドイツ側からみたもの(『ベルリン3部作』)、逆にロシア側からみたもの(『同志少女よ、敵を撃て』)が記憶に新しい。今回の作品は同じ第二次世界大戦でもフランスからみたもの。一概に戦争といっても、国によって戦い方や捉え方はそれぞれだ。それでもやはり共通なのは「平和に生きたい」という庶民の願いと希望が根底にあるのだと思う。

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