書に耽る猿たち

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『名もなき王国』倉数茂|現実と非現実の境界をしゃぼん玉のようにたゆたう

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『名もなき王国』倉数茂

ポプラ社[ポプラ文庫] 2022.2.28読了

 

数茂さんという作家は初めて知った。帯に書かれた日本SF大賞三島由紀夫賞ダブルノミネートの文字と、書店に飾ってあった「多くの書評家絶賛!」というのを見て思わず手に取ってみた。

者を彷彿とさせる中年小説家の「私」、友人で30代の作家澤田瞬(しゅん)、そして彼の亡き叔母で小説家だった沢渡晶(あきら)の3人が登場する。それぞれの人生が断片的に語られていく。

れはメタフィクションと言われるものなんだろう。入れ子構造になっており、作中作なのか事実なのか、誰のことなのか、はたまた自分が何を読んでいるかもわからなくなってしまう。読んでいる私という存在が宙に浮いていて、夢の中で自分が見えていて夢であるとわかっているようなあの感覚になった。

想的で、ファンタジスティック。SF作品とは私は感じない。「物語の魔力に取り憑かれた人たちの話」と序文で謳われているように、「物語の物語」なのだ。こういうものを書く作家の頭の中はどうなっているんだろうと本当に感心する。文章は繊細で丁寧、そして柔らかく美しい。

めの「王国」と最後の「幻の庭」という章はおもしろく読めたのだが、ほかはいまいちピンと来なかったのが正直なところ。ファンタジーが少し苦手なのかもしれない。なにしろ、おもしろかった2つの章は現実に近いものなのだ。

リーポッターは夢中になって読んだし、エンデ著『はてしない物語』はベスト10に入るほど好きなのに。なんでだろうと考えたら、自分がファンタジー小説で好きなのは、現実とは全く異なる異世界のものなのだ。魔法や地球外生物が飛び交うような非現実的な世界。

の作品は現実に近い非現実。そのあいまいな境界線をしゃぼん玉のようにたゆたう。こういう感覚が好きな人にとってはたまらないだろうなぁ。ファンタジー大作は、小野不由美さんの『十二国記』、上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』シリーズをいつか読破しようと思っている。トルーキン著『指輪物語』もまだ未読なのでそのうちに。