書に耽る猿たち

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『移植医たち』谷村志穂/臓器移植を考える

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『移植医たち』谷村志穂

新潮文庫  2020.5.12読了

 

器移植をテーマにした医療小説だ。著者の谷村志穂さん、名前は知っていたが初読みである。医療系の小説自体久しぶりだが、医療といっても日本ではあまり馴染みのない「移植」を取り上げている。

メリカで移植手術を手掛けるDr.セイゲルが日本で講演を行い、それに感銘を受けた3人の医療従事者がセイゲルの元で働くようになる。それが佐竹山行蔵、古賀淳一、加藤凌子でこの小説の主人公、おそらく表紙のイラストの3人。しかし、登場する他の医師も含めてタイトル通り『移植医たち』みなが主役だ。

器移植のスペシャリストとなり、アメリカ・ピッツバーグで成功した彼らは、日本でようやく「脳死」が認められた際に帰国し、国内でも臓器移植を広げるようにチームを組む。未だに臓器移植には根強い反発がある中で、どう立ち向かうのか。そんな医療ドラマである。

だ温かい身体から臓器を取り出すこと、ヒヒの臓器を人間に移すこと、このような描写には目を伏せたくなった。ここまでしなくてはいけないのか?と人として思ってしまう。しかし、移植によってしか救えない命もあるのも事実。

メリカでは、手術前に患者と医師の包み隠さぬリコンファーム(再確認)がある。医師が手術のリスクを正確に伝え、患者が迷い始めたら手術は取りやめていいそうだ。予定が狂うことを嫌う日本ではあり得ないと思うし、医師だけでなく患者も家族も忠実でいたいはず。そういう意味では、手術を取り巻く環境だけでなく国民性も大きく関わってくるのだろう。

術自体も大変だがそれ以上に難しいのは手術後である。拒絶反応にどう対処するか。手術後1〜2ヶ月で亡くなったとしても成功だといえるのか。一方で、本人がわずかの期間でも人間らしく生きられ、家族や恋人と生活出来たのならやって良かったと思う場合もある。これは当事者にしかわからない。

んでいてあまりに具体的なため、実際にあったことではないのかと錯覚した。解説を読むと、やはり事実を元にしたフィクションだった。「和田心臓臓器移植」についても言及があり、執刀した医師が殺人罪に問われた事件も特番で見た記憶があった。それにしても、医療に携わったことのない谷村さんがここまでリアルに表現したことは並大抵ではない。

療に携わる人たち、これは世の中数多ある職業の中では一番やりがいのある仕事であり尊敬されて然るべきだろう。何しろ、人の命を救うのだから。今も、新型コロナウイルスの最前線で戦う医療従事者の方たちには頭が上がらない。