書に耽る猿たち

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『デミアン』ヘルマン・ヘッセ/自我の追求

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デミアンヘルマン・ヘッセ  高橋健二/訳  ★

新潮文庫  2020.5.10読了

 

じめにヘッセ氏が語る「はしがき」がある。わずか3ページの文章なのだが、これがとても心に響く。はしがきに感動することなんて滅多にない。「すべての人間の生活は、自己自身への道であり、一つの道の試みであり、一つのささやかな道の暗示である」この小説の精神がここで示されている。物語を読み終えた後、またこの「はしがき」に戻ってしまった。

ンクレールは、不良少年につまはじきにされないように嘘の発言をする。それが不幸の始まりとなった。救ってくれたのは年上のデミアンという少年だった。シンクレールにとってこの先多大な影響を与える謎の人物、デミアン

人公ではない人物が小説のタイトルになっているということで、山本周五郎さんの『さぶ』を思い起こす。デミアンって何かホラー映画に出てきたような名前だから、なんとなくその響きだけで怖い感じがする。

分の貯金箱とはいえ親にだまって盗みを働いた瞬間から、景色が一変してしまうところの描写。デミアンが味方なのか何なのかわからなくて避けたいような逃げたいような感情。人間の持つ微妙な心理を美しく繊細な文章で表現する技量に圧倒される。さすが詩人でもあるヘッセ氏だ。

はてっきり、デミアンは悪の象徴であり、徐々に悪道に引きずりこまれていく話をイメージしていたが、全く違った。デミアンは、明と暗のそれぞれの道を知っている人物だった。シンクレールは、デミアンを通して自分の内面を探り、自分とは何か、自我を見つめ直す。

の小説の中では「カインのしるし」がキーワードになっている。聖書についてもう少し勉強してから読めばより理解が深まっただろう。去年ようやく簡易的なガイドブックで古事記を勉強したが、聖書はほとんど知らない。ヘッセ作品の中で『デミアン』が1番という声も多いようだけれど、私は『車輪の下』の方が良かった。

は言え、ヘルマン・ヘッセはやはり素晴らしい。何を今さら、という方も多いと思うが、私の中では気付いた今がその時なのだ。次は何を読もうか、あまりハードルをあげたくないからそんなに有名でないものにしようか。感動の余韻に浸りたいから、しばらく時間を置いてからにしようか、などつらつら考えたり。

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