書に耽る猿たち

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『アメリカーナ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/米国における人種格差

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アメリカーナ』上下 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ くぼたのぞみ/訳 ★

河出文庫 2020.5.24読了

 

イジェリアの女性作家さんの小説。単行本刊行時から気になっていたのだけれどいかんせん分厚過ぎて断念…。私は読みかけの本は出かける時は必ず持ち歩くから、単行本で分厚くて重いのはいつも非常に悩みどころ。で、気付いたら文庫本で分冊になっていたので迷わず購入。

れがとても夢中になり楽しく読めた!ナイジェリア?どこだろう?という感じで地図を確認し、初めての作家だしそんなに期待はしていなかったのだけど、物語として非常に完成度が高く、素直に面白いのだ。特に女性が読んだら共感できることこの上なし!

もそも、「アメリカーナ」ってたまに聞く単語だけどどんな意味なんだろう。アメリカの文化、またはブラジル・サンパウロ州の首都のことをさすことがほとんどだが、この小説については「アフリカ系アメリカ人」という意味合いが強いようだ。そんなわけで、この小説はアメリカにおける人種問題が重要なテーマとなっている。

メリカに住むイフェメル(ナイジェリア人)は行きつけのヘア・サロンが閉店したため、アフリカン・ヘアを結ってくれる店をやっと見つける。そこで何時間もかけて髪をセットする間に、過去の出来事が走馬灯のように思い出される。学生時代に愛を誓いあったオビンゼのこと、母親とのこと、多くの友人、恋人たち。そして仕事。それらにいつも付きまとうのが「黒人」であるという現実。

フェメルはフォロワーがたくさんいる著名ブロガーになるが、そんなところがいかにも今風だ。最初からWordPressを使いこなし本格的でなんとも素晴らしい。実際にチママンダさんが強調したいことをイフェメルの言葉でブログにしており、それがあまりにも人の心を打つ。

メリカの黒人女性がバラク・オバマ氏を好きなのは、彼がミシェルさんを、つまり黒人女性を妻に選んだからだという。アメリカの偉大な男性達はほとんど白人女性を妻に選ぶ。だからどんな人を妻に選んだかというそれだけでもバラク氏を非常に好んでいることがなんとも興味深い。

ラクオバマ氏が選挙で勝ち、次期大統領に決まった時。彼とミシェルさんと2人の子供達がステージの姿を歩く姿。ミシェルさんの『マイ・ストーリー』のあの場面が写真と共に鮮やかに蘇った。やはり、オバマ氏が大統領になったことは、私たちが想像も出来ないほどの大事件であり、ある種の人たちにとっては希望の光だったのだ。

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 帯には21世紀のジェイン・オースティンとあるが、ラブストーリーというよりも、私にはアメリカにおける人種格差についての物語だった。聡明なのに愛らしく魅力たっぷりなイフェメル。きっと著者のチママンダさんみたいなんだろうか。イフェメルの強いけれど繊細な、そこはかとないエネルギーに読者の誰もががとりこになるだろう。