書に耽る猿たち

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『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』ジェスミン・ウォード/弱さをひた隠し強がる

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『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』ジェスミン・ウォード 石川由美子/訳

作品社 2020.6.18読了

 

や、この小説のタイトルやばいですよね。カッコよすぎ!英語の原文だとどんなニュアンスなのかはわからないけど、日本語訳のこの表現は素晴らしい。この作品は、アメリカで最も歴史と権威がある文学賞の全米図書賞を、アフリカン・アメリカンである著者が初めて受賞したという快挙だ。

メリカ南部に住むある家族のロードノベル。13歳の黒人少年ジョジョが自我を問う成長物語である。なんとなく、コ―マック・マッカーシー氏の『ザ・ロード』を思い起こさせる。この小説では、より力強い生命力が感じられる。登場する誰もが、弱いのにそれを見せない強がる姿が切なくもあり美しくもある。

ョジョ以外にも、母親のレオニ、そして第3の語り手の視点が重なり合い話が展開する。ジョジョとレオニはお互いに心を通わせられない。始めはジョジョの境遇を哀れんでいたが、レオニの過去を知ると納得出来ることもある。親子でさえ理解し合うのは難しい現実がここにある。

メリカでベストセラーになる本が、人種差別、階級格差、貧困、暴力等について描かれることが多いのは、未だにこれらの問題が溢れているからだろう。そして、アメリカ人の心が解き放たれるのは、これらの問題を解決し得るひと筋の光明が差すときなのだと思う。

の作品を執筆する際、トニ・モリスンさんの『ビラヴド』が心に浮かんだという著者のコメントがある。かつて愛ゆえに殺した娘が、ゴーストとなり現れ共同生活をするという話だ。モリスンさんの作品は『ソロモンの歌』しか読んだことがないから、読んでみよう。