書に耽る猿たち

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『ならずものがやってくる』ジェニファー・イーガン|ポップな現代アメリカ文学

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『ならずものがやってくる』ジェニファー・イーガン 谷崎由依/訳

ハヤカワepi文庫 2021.3.30読了

 

2011年のピューリッツァー賞フィクション部門受賞作である。「ならずもの」とは何なのか?全く予想がつかず、一体どんな話なんだろう?と興味津々で読み進める。

常に現代アメリカ文学らしい、というのが第一印象である。文体がポップで、瑞々しく若さを感じる。とは言ってもこれを書いた時著者のジェニファーさんは40代半ばくらいだろうか。若者だけでなく幅広い年代の人が登場するのに、みんな「生」へのエネルギーが強いのか、それが若さを感じさせるのかもしれない。

いつい盗みを働いてしまう癖のあるサーシャと、音楽プロデューサーのベニーを中心に、2人に関わりのある人たちが登場する群像劇である。いくつかの章それぞれが短編のようになっており、時空をも越えている。

成も興味深く、パワーポイントのスライドを見ているような章があり(そもそもこんな小説見たことない!と驚いたのだが)、斬新だなぁと思いつつも実はあまり頭に入ってこなかった。私はやはり文章になっているものが好きなのだと改めて自覚した。パワポは資料として見るのはわかりやすいけれど、やはり読書とはちょっと違うよなと。

の作品は結構好き嫌いがわかれるかもしれない。私自身、章によって入り込みやすく共感できたものもあれば、いまいちピンとこない章もいくつかあった。ひとつの小説の中で、これだけ感じ方が異なるというのも珍しい気がする。これを1人の作家が生み出したことにそもそも驚かされる。

者のジェニファー・イーガンさんの名前は初めて知ったが、この作品以外にもアメリカの文学賞の候補になったもの、映画化されたものもあるようだ。元々ノンフィクションライターでもあったようで、確かに読んでいて時事問題に精通していると感じた。