書に耽る猿たち

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『鯖』赤松利市/目が光る

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『鯖(さば)』赤松利市

徳間文庫 2020.7.31読了

 

松さんのデビュー作は中編『藻屑蟹』、続いて書いた長編は本作『鯖』であり、山本周五郎賞候補にも選ばれた。ジャケットの文字が強く主張している。ただ大きいのではなく、なんだかこちらを睨んでるように見えるのは、鯖という漢字のつくり(右側部分)の下(円)が丸くライトのように光っていて、目のように見えるからだ。さながら魚の目のように。魚の目はなんだか怖い。

本釣り漁師船団員達の物語。船頭である大鋸権座(おおのこごんざ)を始めとする50代後半から60代後半までの4人と、1人35歳の比較的若い水軒新一(みずのきしんいち)の5人は、漁をしながらのその日暮らし、それでもそれなりに幸せに見える生活をしていた。そこに儲け話が舞い込んでくる。割烹女将らの色香に振り回されたり、欲に目が絡む彼らの運命は如何にー。

に終盤のスピード感溢れる怒涛の展開は息もつかせぬほどで圧巻だ。人間の欲望はこうなるんだなとエネルギーを存分に感じられた。魚界の中では「鯖」を蔑み、それを主人公で自分に自信のない新一と照らし合わせるのだが、雑草魂、ナニクソ精神のようなものが見て取れる。後味(読後感)は『藻屑蟹』に似ている。

村萬壱さんが解説を書いているのだが、見事な着眼点で非常にわかりやすく、赤松作品への理解が深い。赤松作品を、クライムノベルもの、ボダ子もの、ファンタジーものに分類している。なるほどね、では次はまだ未読の分類である『ボダ子』かなぁ。吉村さんの作品は『臣女』しか読んでいないが、赤松さんの小説に雰囲気が少し似ていたように思う。

回は漁師(釣り)の話。赤松さんの作品にはいつも水気がつきまとう。そう、山のイメージは全くないのだ。『藻屑蟹』『アウターライズ』も男臭を感じたが、今回の『鯖』は今まで以上に、むさ苦しいほどの男意気を感じた。多分、女性よりも男性のほうが共感できるのではないかと思う。

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