書に耽る猿たち

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『ミスター・メルセデス』スティーヴン・キング/警察もの推理ミステリー

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『ミスター・メルセデス』上下 スティーヴン・キング 白石朗/訳 ★

文春文庫 2020.9.2読了

 

しぶりのキング作品だ。キング氏の小説を読むときは、軽い気持ちで読めないから心して挑む。この作品はのちに続く『ファインダーズ・ キーパーズ  』『任務の終り』と同じビル・ホッジズ刑事3部作シリーズの1作目である。アメリカではテレビドラマでも人気になったようだ。

退した元刑事ホッジズは、未解決の無差別大量ひき逃げ事件の犯人、ミスター・メルセデスメルセデス・ベンツでひき逃げした)から挑戦状とも受け取れる挑発の手紙を受け取る。元コンビである現職刑事ピートに相談せず、自分で解決しようとする。犯人が誰かを突き止めるものではなく、犯人は早い段階で明らかになる現代風の推理ミステリーだ。

スター・メルセデスは犯行当時にピエロのマスクを被っていた。ペニーワイズが流行っていた街で。ペニーワイズといえば、同じくキング氏の作品『IT』に登場していたあのピエロではないか!こういうの好きだなぁ。同じ作家の別作品にさりげなく登場する人やモノ。ファンやマニアだけがそこでほくそ笑む。

はりさすがのキング作品!どっぷりと浸れるストーリーに満足度が高い。下巻途中からは頁をめくる手が早まった。キング初のミステリーと言われているけど、日本においては今までの作品も広義のミステリーには入るはず。今回の作品は(元)刑事が主人公だから、いわゆる警察ものと言えるところが純粋なミステリーなのか。キング氏お得意のホラーや時空移動、超常現象がないから現実に起こりそうで、ある意味読者を選ばず受け入れられやすい作品かもしれない。

場人物の口の悪さが目立つこと。「くそったれ」のオンパレードで、いかにもアメリカの小説という感じ。これがないと締まらないという読者も多いかもしれない。キング作品が大長編なのは(これでも今回は短いのだけど)詳細な人物描写にあるが、私はこれが好きなんだろうと思う。無駄だと思うところも手を抜かずに、文章を巧みに紡ぐ真の作家。

メリカにおけるミステリで最高の賞、エドガー賞を受賞している。エドガー賞ということはエドガー・アラン・ポーから来ているのだろう。日本でいうところの江戸川乱歩賞松本清張賞、このミスになるのだろうか。さぁ、シリーズあとの2作も読むのが楽しみだ。