書に耽る猿たち

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『たそがれてゆく子さん』伊藤比呂美|老い先の指南書

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『たそがれてゆく子さん』伊藤比呂美

中公文庫 2021.12.8読了

 

店に『ショローの女』という本が新刊で積み上げられているのを目にした。ショローって、初老だよなぁ。初老は、今はだいたい50〜60歳くらいを指すようだが、平均寿命がまだ低かった昔は40歳を指していたようだ。この本は『ショローの女』と同じ伊藤比呂美さんのエッセイで、文庫の新刊コーナーに並べてあった。

藤比呂美さんは元々詩を中心に書いていた方で、最近は「老い」をテーマにしたエッセイを書いている。恥ずかしながら伊藤さんのことは知らなかったのだが、谷川俊太郎さん、瀬戸内寂聴さん、石牟礼道子さん、柴田元幸さんとも交流があったようで、文筆業で息長く第一線でご活躍されている。  

気味良いテンポで繰り出される伊藤さんの文章は、絶望まっしぐらな内容なのに、清々しくユーモアもあり痛快だ。自分のことを「わたし」でなく「あたし」と言ってるのがなんだかかわいい。老老介護といえるのか、60歳の伊藤さんが87歳の旦那さんの介護をしている姿が描かれているのだが、子供を愛おしむように、かわいがるようにお世話をしている。

いや介護の実態をありのままにさらけ出しているこの姿を見ていると、「この先こんなことが待ち受けているのか」と誰しもが通る道を先導してくれているような、やったれと思わせるような勇気が湧いてくる。同世代の人たちには共感を得られるだろうし、中年に差しかかった人もこれを読むと受け止め方が変わってくるんじゃないかと思った。でも、若者にはなかなか想像しにくいかも。

の本のなかで、伊藤さんの旦那さん(正式には籍を入れていない)は結構最初の方に亡くなってしまうのだけれど、ずうっと彼の気配あり、苦労を掛けて面倒をみた夫のことでも、元気な時は「死んでしまえ」と何度も思った相手でも、やっぱり大切だったんだなぁと愛情がたっぷり感じられたのだった。『ショローの女』も文庫になったら読みたい。