書に耽る猿たち

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『パチンコ』ミン・ジン・リー/誰もが産まれる国を選べない

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『パチンコ』上下 ミン・ジン・リー 池田真紀子/訳 ★★

文藝春秋 2020.10.30読了

 

るでペルシャ絨毯を思わせるような装幀、色使いは花札のようだ。書店で見かけた時に表紙に一目惚れしたのだが、よく見ると全米図書賞最終候補、オバマ前大統領推薦とある。そして在日コリアン4代にわたる年代記なんて、好み過ぎる!

うしてタイトルが「パチンコ」なんだろうと不思議に思いながら読み始める。と、タイトルを忘れてしまいそうなほど、なかなかパチンコは出てこない。上巻には確か一回だけさりげなくパチンコという単語が出てきただけ。タイトルの意味がわかるのは、後半から。

れが、めちゃめちゃおもしろい作品だった。最初の数頁では、妻子ある男性に騙されてしまった少女のよくあるストーリーかなと思っていたのだが、いつしか物語に引き込まれて没頭してしまい素晴らしい読書時間を堪能できた。

ャケットや宣伝文句に期待に胸膨らませ、その通りに本当におもしろい小説って実はそんなにない。期待外れなことの方が多くて、意外とさりげなく選んだ一冊が良かったりするものなんだよなぁ。でも、この本はドンピシャ!

鮮の地で、不具だけれど優しい父親と母親の元に産まれた貧しい少女ソンジャが辿る生涯は、4世代にわたり群像劇として展開される。産まれた地を捨てて、日本で住むことになる登場人物たち。読んで欲しいから詳しくは語らないが、差別、信仰、血の繋がりや家族、そんなものが全てある。在日という点からは山崎豊子さんの『二つの祖国』を思い出した。

の本はアメリカで大絶賛されながらも長らく邦訳が出版されなかった。おそらく、内容に反日感情が飛び交っているからだろう。朝鮮人が日本を、日本人をどんな風に思っているのかがよくわかる。少し悲しくなるほど。でもそれは日本人がコリアンを差別したからだ。日本に住む在日コリアンを、こうやって傷付けたからだ。誰もが家族や親を選べないのと同様に、国も選べない。産まれた国と過ごした国、どちらに対する愛国心も、きっとある。

そらくそんな理由も多少はあり、日本での出版に時間がかかったのだろうが、本当は一番に日本で刊行されるべきだったと思う。日本人がこれを読んでどう思うのか。自国の体制と思想に納得できるのか。変えていきたいと思うのか。登場人物には、痛ましいながらも共感でき愛しくなる。中でもソンジャの長男ノアにはひときわ心惹かれそして戸惑う。

河ドラマを観ているようだが、文章は堅苦しくなくむしろ滑らかで読みやすい。訳者の池田真紀子さん、目にしたことあると思っていたら、ジェフリー・ディーヴァーさんの作品をよく訳している方だ。

う若くはないので健康のためにもなるべく睡眠時間を削らないようにしたいのに、これはダメだった。今年読んだ本の中で確実にベスト3に入る、心にすとんと落ちる大切な作品だ。どんな人にも胸を張ってお薦めできる本。是非皆さん読んでみてください。