書に耽る猿たち

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『魯肉飯のさえずり』温又柔|心が繋がっていれば、言葉が通じなくてもわかりあえる

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『魯肉飯(ロバプン)のさえずり』温又柔(おん・ゆうじゅう)

中央公論新社[中公文庫] 2023.8.29読了

 

れ、魯肉飯って「ルーロンハン」って読むんじゃなかったかな。日本には台湾料理店も多く魯肉飯は結構浸透していてルーロンハンで通ってる。「ロバプン」と振ってあるけど、これは台湾読みなのか?いや、「ロバプン」が漢字をそのまま読んだ日本語読みで母国の読み方が「ルーロンハン」だろうか?そして、鳥じゃないのにご飯が「さえずる」って?タイトルを見てあれこれ思っちゃう。

 

湾人の母親と日本人の父を親に持つ桃嘉(ももか)と、台湾で出逢った日本人と結婚して日本に住む台湾人の母雪穂(ゆきほ)の視点が交互になり物語を構成する。

 

嘉の夫である聖司と同様に、私も八角はそんなに好んでは食べない。ほのかに香る程度なら良いのだけど、結構がっつり効いていると、途端に「うっ」となる。そういう時は「ふつう」のご飯、つまり自分が生まれながらに慣れ親しんだ日本食やらが良いと思ってしまう。この「ふつう」っていうのがどうしても自分基準に考えがちなのがやっかいなところ。

 

の中学受験の面接に、日本語がよくわからない台湾人の雪穂ではなく、父親に来て欲しいと言われた。そのことに大きなショックを受けた雪穂は、初めて台湾にいる母親に国際電話をかける。その時に母親が伝えた言葉に心が温かくなる。

いい?よく聞きなさい。ことばがつうじるからって、なにもかもわかりあえるわけじゃないのよ。あなたとあたしだって、そうだったじゃないの?(133頁)

 

うだよなぁ。もちろん言葉でわかりあえることの方が多いけれど、心で繋がっていたら絆はそれ以上だ。親と赤ちゃんが会話をできなくてもわかりあえるし、国籍が違う者同士の結婚もそう。そして、人間とペットの関係なんてまさしくその極み。それでも人間以上の信頼関係が生まれるではないか。

 

を思う母の、母を思う娘の気持ちが痛いくらいに感じられて何度も涙しそうになった。誰かにとって「こうありたい」と思う前に、まずは自分を大事にすることの大切さを改めて感じる。月並みだけど、自分に優しく自分を好きにならないと、他人に優しくなれず、ましてや好きになることはできない。

 

湾語や中国語を織り交ぜて喋る姿が、鳥がさえずるように茂吉(桃嘉の父)には聞こえるのだそう。そしてタイトルに振られたルビの「ロバプン」は温さんがつけたもので、本来の読み方は「ロバペン」か「ロバプン」、いや、日本語の音ではうまく表現出来ないものらしい。混ざり合った国の言葉でも、つまりことばが通じなくても、大事なものは読者に通じるということをタイトルからも教えてくれている。

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