書に耽る猿たち

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『水と礫』藤原無雨|文藝賞どうなのよ|巻き煙草とらくだ

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『水と礫(れき)』藤原無雨(むう)

河出書房新社 2021.2.12読了

 

注目を集める河出書房新社主催の文藝賞。この『水と礫』は去年の第57回受賞作で一番新しい作品である。文藝賞が何故注目されているのかというと、『推し、燃ゆ』で芥川賞を取った宇佐見りんさん、『破局』で芥川賞を取った遠野遥さんがそれぞれ過去の作品で文藝賞を受賞しているからなのだ。ということはまずは膨大な作品の中から発掘する河出書房の編集者、担当者が優秀なのだろう。見る(読む)目があるということか。

者の藤原無雨さんという方の作品はもちろん初めてで、文藝賞受賞ということで新人なのだろうけど、切れ味の良い文体、独創的なストーリーに数頁読んだだけで虜になる。なんだ、この話は?クザーノという名前の21歳の男性が主人公。名前もさることながら、砂漠へ旅をするという設定。それ以上にも目を見張るのは、構成の大胆さだ。度肝を抜かれた。

(※実際に読むとすぐわかりますし、色々な書評やレビュー、サイトに載っているので問題ないと思いますが、新鮮な気持ちで読みたい方は下記に構成をバラしているので読むのはお控えください)

めに1、2、3と続いた後、また1、2、3と続くループのような構造を取っている。小説でこんな書き方をしているのは珍しい。現在から過去に向かって進むパターンはよくあるけれど、これはなかなか新鮮な感覚だ。ぶっ飛んでるなぁ、と思った。

京で働いていたクザーノはある事故を起こしてしまい故郷に戻る。しばらくして、らくだと共に砂漠へと旅に出る。そこで出逢った人と結婚して子供が産まれる。大まかにはそんな話なんだけど、それが幾重にも重なり、重なるごとに物語は厚みを増し、広大な一族の年代記になる。

目を与えられて何人かがそれぞれ書いたらこんな風になるのだろうか?と最初は思っていたが、これはやはり藤原さんならではの文章であり物語だ。らくだと巻き煙草が常にある。旅をする自由な心意気が羨ましく思う。読み終えたら「人生」というものについて考えてしまう。

原さんは何冊も書いている上級者のように思える。構成に注目されがちだが、文章も読みやすく独特の文体も歯切れがよい、そしてこなれ感が出ている。この作品で芥川賞候補作に選ばれなかったのが不思議なくらい。

して読む側に好き嫌いがはっきり分かれそうで、難易度も少し高めかもしれない。小説を読み始めたばかりの人はもしかしたらとっつきにくいかも。でもとても味がある。私はわりあい好きな感じだ。

き煙草がひたすら登場するから、スティーヴン・ミルハウザーさん著『マーティン・ドレスラーの夢』を連想してしまった。作中に出てくる道具や主人公が愛すべき癖みたいなものって、その本の思い出にもなるんだよなぁ。 

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