書に耽る猿たち

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『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』ジェフリー・ユージェニデス|少女たちのほのめかし

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ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』ジェフリー・ユージェニデス 佐々田雅子/訳

ハヤカワepi文庫   2021.2.22読了

 

のタイトルにまず目を見張る。なんといっても「ヘビトンボ」だ。トンボの一種で、大顎で噛みつく習性を蛇にとらえてヘビトンボと名付けられたそう。24時間しか生きられないはかない命の昆虫。この作品の舞台である街では、毎年6月になるとヘビトンボが群れる。

スボン家の五人姉妹が自殺をする。最初に自殺したのは末っ子13歳のセシリア。そのセシリアの自殺から次のヘビトンボの季節までの約1年が語られる。不思議な語り口で物語が進み、最初はよくわからなかったのが、どうやらこのリスボン家の五人姉妹を観察するのは近隣に住む「ぼくたち」である。そして、大人になった「ぼくたち」が膨大な資料を元にリスボン家の事実と謎を回想しているのだ。

くたち、ということは、ぼくでも特定の誰かでもなく複数の目。監視しているような、ストーカーまがいのような、ちょっと気持ち悪いなと思っていた。まるで、ナボコフ著『ロリータ』を読んでいるかのような。それでものめり込むように読み耽る。

くたちがいくら助けようとしても傍観者であって何もできない。そもそも、五姉妹はまるでそうするしかなかったから自殺をしたようで、いいも悪いも、死にたいも生きたいもなかったのかもしれない。真相は誰にもわからない。そして、なぜ自殺をしたのかよりも、少女たちのほのめかしに興味が募る。最大の被害者である姉妹の両親の想いは押しのけられているようで、読んでいても何故か悲しみは感じない。

体をまとう雰囲気がどことなくトルーマン・カポーティ著『冷血』を思わせる。中身は違うのに事件を追っているような感覚だからだろうか、それともその文体なのか。サスペンス感漂うぞくぞくするような、それでいて後味の悪さまでつきまとう。アメリカンミュージックがバックに流れるようで、一度読んだら絶対に忘れられない衝撃的な小説であることに間違いはない。

行当時この作品を読んだソフィア・コッポラさんがメガホンを取り『ヴァージン・スーサイズ』という映画を製作した。彼女の初監督作品である。この小説の世界観をどうやって表現したのかとても気になるから観てみたい。