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『街場の天皇論』内田樹|天皇制について考えてみよう

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『街場の天皇論』内田樹 

文春文庫 2021.2.19読了

 

2016年8月、当時の天皇陛下が「おことば」を述べられた。著者の内田樹さんは、陛下の「おことば」は、日本人が天皇制について根源的に考えるための絶好の機会を提供してくれたものと感謝の気持ちを以て受け止めたという。

皇は「象徴」であるとともに「象徴的行為」を行う務めがあると話された。「象徴的行為」とは実質的には「鎮魂」と「慰藉」だとした。つまり、先の大戦で亡くなった人々の霊を鎮めるための祈りと、災害の被災者を訪れて傷ついた人々へ慰めの言葉をかけること。高齢によって、全身全霊をもって象徴の務めを果たせなくなることから「生前退位」の意向を示した。「その通り。身体的にも精神的にもダメージがかかる大変なお務めだから無理しなくていいと思う」と、そのニュースを観て私は思ったものだ。

も多くの国民と同じで天皇制については深く考えたことがなかった。日本には象徴としての天皇がいて、政治の代表としては総理大臣がいると当たり前のようにすでにあったからだ。中学生の時に日本国憲法の前文を丸暗記させられたからか、今でも諳んじることができる。どうして若い頃に憶えたものは忘れないのだろう。

の「天皇制」というものについて内田さんが書いたいくつかのエッセイを集めまとめたものが本書である。天皇天皇制、他にも関連性のあるものについて内田さんなりの意見を述べている。「天皇制」と「立憲デモクラシー」という相矛盾するものを、実は共生するものではないかと捉え、それぞれがあることで住み良い社会になっていると内田さんは独自の見解を述べている。  

島由紀夫さんと東大全共闘の論戦にも触れられていた。確かに三島さんはしきりと「天皇」を意識していたし、『英霊の聲』では天皇を美的象徴と捉えた。映画を観たけれど、その時には東大生との白熱する議論にばかり目がいって天皇についての発言をあまり覚えていない。再度全文を読み直したい。

前友人が天皇一般参賀を訪れた時に、天皇・皇后両陛下のお顔を拝見しただけで、知らずと涙が流れ落ちたと言っていた。それを聞いた時は「そんなぁ」と笑っていたのだけれど、もしかするとそういうものなのかもしれない。日本独自の天皇制、しっかりと国民一人一人が考えていかなくてはならない。

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