書に耽る猿たち

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『高い窓』レイモンド・チャンドラー|マーロウがいちいちカッコ良すぎる

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『高い窓』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳

ハヤカワ文庫 2021.3.23読了

 

月読んだ『ロング・グッドバイ』が素晴らしく良かったから、余韻冷めやらぬうちに、探偵フィリップ・マーロウシリーズの3作めである『高い窓』を読んだ。今回も村上春樹さんが訳したものにした。

の作品はいわゆる探偵モノの王道という印象を受けた。何故なら、マーロウが資産家の老女から調査の依頼を受けるという場面から始まるからだ。いつの間にか難事件に紛れ込んでいた、とかそういう類ではない。正当に仕事の依頼から始まる。

頼内容は、貴重な金貨を義理の娘が盗み行方をくらませたのではないか、ということで調査をして欲しいというものだ。仕方なしに仕事を受けるマーロウだが、殺人に巻き込まれるーー。それにしても、チャンドラー作品に殺人が出てきても、全く血生臭い感じがしないの、なんでだろう。

たもやマーロウがいちいちカッコいい。依頼をした老女エリザベスの屋敷の庭にある黒人少年の像に向かって「兄弟(ブラザー)、お互いつらいよな」とか「予想よりすさまじかったぜ、兄弟」と言って頭をとんとんと叩く仕草には、悔しいけれどやられる。

はマーロウ作品が映像化されたものを映画でもテレビドラマでも観たことがないのに、自分の中でのマーロウ像が鮮やかに出来上がっている。文章だけでここまでできるのはなかなかすごい。女性よりもむしろ男性が憧れるような人。優しくて思いやりがあって、ちょっぴりの皮肉とウィットのある語り口。孤高の人。そしてタフガイ。

ャンドラー作品を読んでいると、ハードボイルド・ミステリーなのに、犯人が誰だとか、動機は何なのかということに不思議と意識がいかない。文体を味わったり、マーロウその他登場人物の会話を楽しむことが目的になっている気がする。情景描写や比喩表現も上手い。だからというわけではないが、名作『ロング・グッドバイ』にはとうてい及ばなくても、読んでいるだけで心地よい気分になれるのだ。

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