書に耽る猿たち

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村上春樹×川上未映子「春のみみずく朗読会」に行ってきた

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先週のことになるが、3月1日(金)に、早稲田大学大隈記念講堂にて開催された「村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」に行ってきた。おそらく、私の書に耽る関連では今年のメインイベントの一つになるであろう。

 

早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)に基金をするという形で開催されたイベントである。1/15にサイトを開いてちょっと悩んだけど、たぶんこれを逃すと、特に村上春樹さんに生で会えることは二度とないかもしれないと思い、えいっと決断してポチリ。一般の先着は700人とかだったからうかうかしていたらすぐ埋まっちゃったと思う。

 

実はオーディオブックとかは苦手(というか、オーディブルとか聴いたことないし、聞かず嫌いかも。自分のペースで字を追いたいしちょっとどうかなぁ…と)な傾向だった。だから、トークイベントは良いけど朗読会は微妙だなと思っていた。しかし、、、これがとても良かったのだ。いや~、行って本当に良かった。

 

イアホンではなく生でライブ演奏を聴くような、テレビではなく球場でプロ野球の試合を観るような、そんな生ならではの一体感を感じられた貴重な体験だった。本来小説を読むのって1人でできるし、わざわざ足を運んで聴くほどのものでも…。それにせっかくの舞台なのに演じる人も大道具もなくてもったいない、みたいに思っていたのだけれど。でも、そもそもその小説が主役なんだ。そして、それを声に出して語る人が俳優であって、それでもう一つの作品となる。この時の語りは一度だけ、唯一無二のもの。来た人にしか味わえない極上の贅沢。

 

なんというか、語りでしかなし得ないその場の臨場感、この会場だけの連帯感みたいなものが感じられて、ちょっと鳥肌が立ったのだ。聞き漏らさないようにしないと、と気持ちを張り詰めて力が入るかなと思ったけれど、静謐で清らかな空気感のせいか自然体でいられた。この大熊講堂ならではの荘厳さもあるかもしれない。

 

春樹さんと未映子さんの書き下ろし新作短編を、世界で初めて読めた(聞けた)ということがここに来た人への何よりのギフトだったと思う。川上さんの作品もらしくて良かったが、特に村上さんの『夏帆(かほ)』はめちゃくちゃに良かった。時事的にも、今読まれるべきストーリーだなと思う。そのうち短編集に入るか文芸誌に掲載されるだろう。朗読に適した作品で、それは聞きやすさだったり、ストーリーの追いやすさであったり、そして春樹さんの語りであったり。

 

村上春樹さん、ちょっと出だしが早口で聞きとりにくいし、噛み噛みだし、むせるし、水飲みTime多い(ご年齢もあるのだと思うけれど)し、「どうなのかな」と思っていたが、なんとこれが途中から心地よく思え、低く渋いボイスが妙にハマってきた。短編ってどうしても忘れがちになるが、これは村上さんの語りと共に絶対に忘れないだろう。ほぼ全てを今でも鮮明に覚えている。

 

友情出演として、ギタリストの村治佳織さんと俳優の小澤征悦さんが登場した。特に期待はしていなかったのだけど、なんのその!村治さんの素晴らしいギターの音色。ビートルズの『yesterday』と『Michelle』は優しく味のある音色にうっとりした。クラシックギターっていいよなぁ。

 

また、小澤さんは未映子さんの『ヘヴン』から一部、春樹さんの『風の歌を聴け』から一部抜粋して朗読。「こんなにも良い声だったっけ」と感心するほどで、朗読にもってこいの人だと思った。俳優なだけあって、登場人物の会話がもうなりきり。目を閉じていたらその壇上で演劇が披露されていると感じるほど。

 

読む人によっても受け取る小説が全く違うものに感じた。実際『ヘヴン』も『風の歌を聴け』も読んだことがありぼんやりと記憶にあったけど、全く別のものになる感じ。おそらく自分が読んだときは文字を追っているだけだし、まああっても自分の声で変換されている。どこで区切るかとか強調するかなども含めて。

 

最後、SNSに載せても良いとのことで4人の撮影タイムが終わり幕が降りたあと、ロバート・キャンベルさんが舞台の端っこに登場して締めの挨拶をされた。「朗読というものは決して本を読んだということにはならないけれど、この時この場所で誰も読んだことがない作品を生で聞くということは、深いところで繋がっているしとても大事なものを皆さんの心に残したと思う」というようなことを話していた。キャンベルさんの優しい日本語のチョイスにセンスを感じ、込められた力強いメッセージにジーンときて、最後はとても胸がいっぱいになり席を立ったのだった。

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