書に耽る猿たち

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『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー|マーロウ、余裕がないぞ|突然の山本文緒さんの訃報

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『リトル・シスター』レイモンド・チャンドラー 村上春樹/訳

ハヤカワ文庫 2021.10.18読了

 

誌『BRUTUS』とても売れているみたい。それもそのはず、村上春樹さんの特集が組まれているから。やっぱり彼の人気は改めてものすごい。村上主義者(本人はハルキストよりこっちのほうがいいらしい)まではいかないけれど、私も彼が作る物語世界に惹かれるし何より文体が好きだ。

近村上さんの本を読んでいないなと、ふと思ったが特に新刊も出ないし、、では翻訳家村上春樹のものを読もうかと、チャンドラーさんのこの作品を読んだ。訳者といえども訳し方や言葉の選び方によって、その人なりの癖みたいなものが確実にあって、村上さんが訳したものは村上さんの味が出る。

て、この『リトル・シスター』は、チャンドラーさんの「探偵フィリップ・マーロウ」シリーズ全7作のうち5作目の作品になる。私が読むマーロウものとしては3作め。もうマーロウのカッコ良さはわかっているから言うまでもない。この作品には美女がたくさん出てくるのだが、そのたびにいつも以上にマーロウのセリフがキザに思えた。

ーロウの事務所に、オーファメイという女性が、兄オリンの行方を探して欲しいと依頼をしに来る。このオーファメイの登場の仕方とツンツンしたキャラが、あぁ、マーロウものだなと思わせる。嫌々ながら(と見せかけて)仕方なく調査を始めていくマーロウだが、アイスピックで首元を狙った殺害現場に遭遇し、あれよあれよと自身も巻き込まれてしまう。

画を観ているかのように鮮やかに、スピーディーにストーリーが展開する。登場人物が多く、場面の移り変わりも多いから結構やっかいだ。整理して読まないとついていけなくなる。なんだか今までに読んだ2作と比べると生き急いでいるかのような、息つく暇がないような印象だ。「マーロウ、なんだか余裕がないぞ!」

まにハードボイルドを読みたくなるのだが、今読むにはちょい疲れ気味だったかもしれない。探偵もの、ハードボイルド、ミステリなどが好きな方はひたすら読んでるのだと思うが、よく続けて疲れないなと感心する。映画も1日に何作も観られる人ってすごいと思う。でも映画マニアの人からしたら本読みのこともそう思ってるのかもしれない。

んなことよりも、昨夕、突然山本文緒さんの訃報が飛び込んできて驚いた。大好きな作家の1人だったから、戸惑いと悲しみでそれこそ心にぽっかり穴が空いた感じだ。初めて山本さんの作品で読んだのが忘れもしない『群青の夜の羽毛布』だ。すごい小説家がいるなとそこからかなりのペースで作品を読み、『恋愛中毒』で完全に打ちのめされた。

愛のことしか頭にない若い女性にとっては、絶対にのめり込むはず。恋愛の楽しさ、苦しさ、怖さ、惨めさ、神々しさ、そして永遠に続くループを知ることになる。先日『自転しながら公転する』が中央公論文芸賞を受賞したばかりなのに。まだまだ新たな作品を読みたかった。でも、素敵な作品たちをありがとうございます。ご冥福をお祈りします。

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