書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『悪い夏』染井為人|不快さ満載の登場人物たち、一歩間違えれば我が身

f:id:honzaru:20220909085527j:image

『悪い夏』染井為人

KADOKAWA[角川文庫] 2022.10.9読了

 

活保護費の不正受給問題をテーマにした社会派小説である。生活保護が行き渡るべき人にちゃんと届かず、不正な手段で保護費を受け取る人が多い。日本の実態もこうなのかと思うと、情けないし悲しくなる。主人公である26歳の佐々木守は、社会福祉事務所の生活福祉課に勤務する真面目な公務員であるが、ひょんなことから問題に巻き込まれ、ずるずるといってしまう。

い人しか登場しない小説はおもしろみに欠けることがあるが、悪人しか登場しない小説はまたげんなりとした不快さが残る。この小説はまさにそれだ。悪人だとしても、あまりにも頭の良すぎる知能犯であれば興味を持ったり、何らかの原因があってやむを得ず犯罪に手を染める場合は、読んでいていくらかの理解ができるのだが、ここに登場する人物には微塵たりとも共感ができない。それがこの本の狙いなのかもしれないが。

かし、ここに出てくる人たちは少し前までは普通の人たちであって、つましく生活をしていた。何かのきっかけで絶望の沼に、抜けるとこのできない悪循環にハマってしまい、到底逃れられない運命を辿ってしまう。あの時判断を間違わなければ、決してこんな結果にならなかったかもしれない。人生で選択するものを間違えると大変なことになってしまうと改めて感じ入った。

日染井為人さんの『正体』を読んで思いのほか楽しめたので、横溝ミステリ大賞優秀賞を受賞しているこの『悪い夏』を読んだ。この賞はKADOKAWAが主催する文学新人賞で、広義のミステリまたはホラー小説を対象としている。私としては『正体』のほうが楽しめた。

honzaru.hatenablog.com