書に耽る猿たち

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『夜の側に立つ』小野寺史宜|スマートな会話が心地よい

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『夜の側に立つ』小野寺史宜

新潮文庫 2021.7.18読了

 

店で本を見かけることがあるので名前は知っていたが小野寺史宜さんの小説を読むのは初めてだ。過去に本屋大賞にノミネートされたのは『ひと』という作品である。たまたま文庫の新刊が目に止まり、本作を手に取った。初めて読む作家の本を読む時は毎回期待と不安があり、その感覚がわりあいに好きだ。

は「不安」というほどでもなく、つまらなかったら、合わなかったら嫌だな、と思うくらいなのだけど「期待と不安」って一緒くたに使うことが多い気がする。

本了治は、友人の辰巳壮介と酔った勢いでボートに乗り湖で溺れてしまう。なんと壮介は溺死してしまうのだ。「ごめん」という了治のセリフから疑惑が生まれる。この小説は、さてはミステリーなのか?と思わせる出来事から幕を開ける。

治は現在40歳であるが、22年の時を超えて語られる。時には18歳の高校時代、20代、そして30代など時代が行ったり来たり。パズルが出来上がるように、少しづつピースがはまっていく。淡々と語られる了治の独白は終始ほの暗い印象だ。了治は高校生の頃から大人であるかのように落ち着いている。

校時代に一緒にバンドを組んだメンバー5人の関係が徐々に明らかになっていく。どこか俯瞰しているような、諦めているかのような了治は、兄が特別にできる子だったが故に一歩遠慮する控えめな男性だ。それでも、随所で苦難を乗り切る潔さは勇気がある。     

野寺さんの特徴は、会話文がテンポ良く簡潔なことだ。まるで若者が話すやり取りそのもののように。読み初めはちょっと苦手かな、軽すぎるなと思ったのだが、独特のスマートなやり取りが段々心地よく癖になってしまう。現代風の小説だと思うし、とても読みやすかった。