『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』渡辺一史
文春文庫 2021.7.17読了
この本の存在を知っている方は多いだろう。ドラマ化・映画化もされたので映像として観た方もいるだろう。2003年に刊行されたこの作品は反響を呼びノンフィクション賞を2つ受賞した。納得の良い本だった。タイトルの『こんな夜更けにバナナかよ』とは、不眠症で眠れない真夜中に「バナナを食べたい 」と言う鹿野さんに対して、ボランティアの国吉さんがふとこぼした思いである。
筋ジストロフィーとは、筋肉が衰えていく病であること、難病に指定されていることくらいしか知らなかった。重度の障がいであり、進行すると1人では何も出来ず周りの手助けが24時間必要になる。その病と戦い生き抜く鹿野さんは「わがまま」である。「わがまま」「あつかましい」、この言葉だけ聞くと他人のことを考えず自分の主張だけをするように思うが、そんな一筋縄の言葉ではない。
読んで驚いたのが、鹿野さんの6歳年の離れた妹さんも重度の障がいを抱えていること。2人の子供が揃って障がい者なんて。鹿野さん以上にご両親のことがまず気になったし、鹿野さんのこの強さは、ご両親から引き継がれたものだと思った。
ボランティアは、障がい者のために行うのではなく「自分のため」に行う人が多いということがわかる。きっかけは「障がい者の手助けに」とか「なんとなく始めてみた」であっても、最後にはみな、自分の生き方、考え方を見詰める機会になっていると気付く。鹿野さんは1人では生きられなかったが、周りの人に大きな影響を与えたわけである。
そもそも健常者であっても人の助けは必要なわけである。だから健常者が「ふつう」で、障がい者が「とくべつ」なわけではなく、人間一人一人が何ができるのか、どう生きるのかが大事なのだ。これを読んでいると、自分の生活で悩んでいることが本当にちっぽけなものに思えてしまう。
ノンフィクション作品は、途中から飽きてきたり、長いなぁ〜と感じることが結構あるのだが、この本を読んでそういう思いは一度も感じなかった。著者の渡辺一史さんはこれが処女作ということだが、文章も読みやすく、何より本人の正直で飾らない人間性みたいなものが滲み出ており、共感できる部分が多い。
筋ジスのこと、障がい者のこと、ボランティアのこと、少しでも興味を持っている人は読んで欲しい。いや、生きる意味や目的みたいなものを考えるきっかけになるから、全ての人に読んで欲しい。私ももっと若いうちに読めば良かったと思う。
この本を読んで小山内美智子さんという方が気になった。脳生麻痺を患った彼女は「札幌いちご会」という団体を立ち上げる。彼女は、話題にあげることすらタブーとされている障がい者の性について、女性でありながらも声を上げた。身体に障がいがあっても、みな同じ人間なのだ。誰にだって自己主張するわがままは許されるし、あってしかるべきなのだ。