『悪い娘(こ)の悪戯』マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦・八重樫由貴子/訳 ★★
作品社 2021.7.21読了
ペルー人のリカルドは、一生をかけて1人の女性を愛した。たとえ彼女が魔性の女だとしても。こんなに翻弄されなくても!言いなりにならなくても!また振られちゃうのに!と思いながらも、リカルドはどこか楽しんでもいるようで、結局男って振り回されるのが楽しいんじゃないの。
濃いハチミツ色の瞳を持つ彼女。「濃いハチミツ色の瞳」という表現がとても好きだ。見る角度で目の動きが異なるような、透明感があるようで濁りもあるハチミツのような瞳、彼女がいかに魅力的なのかがわかる。彼女は名前も素性もころころ変わるが、やはりニーニャ・マラと呼ぼうか。
ニーニャを想いながらリカルドの人生は紆余曲折するのだが、恋愛小説にとどまらず、リカルドの波瀾万丈の人生が最高におもしろい。そして、出会う人物たちのなんと魅力的で味があることか。彼らだけにスポットを当てても物語になるほどだ。なかでも12ヶ国語を操るサロモン・トレダーノは非常に興味深い。
日本にも舞台は移り、それもかなり重要な分岐点となっている。それにしても、日本はこんなに「卑猥でむっつり」なイメージなのか。母国で読んだ人たちからすると日本のイメージはこうなんだろうなぁ…。
夢中になれる恋愛小説は、とてつもなく苦しくて哀しい作品で、それが心を浄化する作用があるのだと思う。例えば、日本でいえば山本文緒さんの『恋愛中毒』のように。でもこの『悪い娘の悪戯』は哀しみよりもおかしみが増している。恋愛冒険譚とでも呼ぼうか。いや、それだと滑稽すぎるか。人間の真髄みたいなものもたっぷり入っている。とにかく、久しぶりに夢中になれる小説だった。
ラテンアメリカ文学はとっつきにくくあるが、リョサさんの作品は結構読みやすい。今までに3冊読んで、特に画家ゴーギャンのことを描いた『楽園への道』はおもしろかった。この『悪い娘の悪戯』はフォローしているMimore(ミモレ)さんのツイートから。上半期のベスト10にも入れているし、他の方もちらほらオススメしていたのでずっと読みたいと思っていた。
『悪い娘の悪戯』
— Mimore(ミモレ)🌼 (@mimorecchi) 2021年1月13日
マリオ・バルガス=リョサ#読了
一人の男性が一人の「悪い娘」に翻弄され身を捧げ尽くす、ファム・ファタールもの。
50年代のペルーに始まり、パリ、ロンドン、東京、スペイン…と40年に渡る激動の軌跡は、恋愛小説というには余りにスケールが大きい。
読みやすく夢中にさせられた。 pic.twitter.com/v44jqsX0he
訳者が2人の共著で同じ苗字であるから気になっていたけど、やはりご夫婦であった。夫婦で同じ職業、しかも同じ作品を訳すなんて素敵。それに英語ではなくスペイン語。スペイン語で語り合ったりもできるなんてロマンチックだよなぁ。
次は『都会と犬ども』か『世界終末戦争』を読みたい。いやー、ラテンアメリカ文学やっぱりすごいなぁ。まだ手を出していないけど、ロベルト・ボラーニョさんの作品も興味深々なこの頃だ。