書に耽る猿たち

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『サキの忘れ物』津村記久子|本は「おもしろい」とか「つまらない」だけではない

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『サキの忘れ物』津村記久子

新潮社[新潮文庫] 2023.11.7読了

 

キという人が忘れた物のことではない。O・ヘンリーと並んで短編の名手とも言われている「サキ」という海外小説家の本が喫茶店に忘れられていた。私はサキの作品はまだ読んだことがない。

 

説家からすると、小説を全く読まない人の視点にたった話はさぞや難しいんじゃないかと思ったんだけど、もしかしたら本を読むきっかけとなった体験も含まれているのかな。

その話を読んでいて、千春は、声を出して笑ったわけでも、つまらないと本を投げ出したわけでもなかった。ただ、様子を想像していたいと思い、続けて読んでいたいと思った。本は、千春が予想していたようなおもしろさやつまらなさを感じさせるものではない、ということを千春は発見した。(30頁)

 

はこうして読了するごとにブログを書いているが、実際にはストーリーがおもしろいと思える本は10冊に1冊もなくて、つまらないというか「ふーん」で終わる本の方が圧倒的に多い気がする。それでもずっと読み続けたいと思うのは、千春が感じたようなこと、つまり本の世界に入り込んで思いを馳せたり、自分が知らないことを知りたいと思ったり、なんとなく読み心地が良かったり。そんな、ただ読んでいるだけで心が安らぐというか、もっともっと本に触れていたいと思うだけ。ストーリーだけじゃないんだよなぁ、うまく表せられないけど。

 

冊の文庫本が運命を変えるなんて…と思うかもしれないが、一つの作品から思考回路が変わりそれによって自分の生きる方向性が大きく変わることは確かにある。この作品で千春はそうだった。最後、なんでこんな短編で涙が出てくるんだろうと不思議な気持ちになった。元川さんのおかげで好きなことが見つかりそれを仕事に出来た千春が羨ましいのか、元川さんがなんの病気で病院に通っているのか、もしかすると会える時間が限られているのかという不安のせいなのか。なんかじんわりと突き刺さったのだ。

 

題作を含め9作の短編が収められている。「あれ」を見るために12時間も列に並ぶ『行列』という作品では、「あれ」という言葉が出る度に、阪神タイガース岡田監督の「アレ」「アレのアレ」が浮かび続けてなんか集中できなかった笑。『真夜中のゲームブック』は、雑誌の心理テストや占いにあるようなチャート式になっており、自分の行動・思考に沿って番号に進むという流れになっている。4つほど進んだら、なんと「本を閉じること」とある。一瞬閉じかけたのだが、「おいおいそれはないだろう、私は本を読んでいるのに」とまた一つ選択を戻って違うチャートを進む。そうして別の選択肢を進むと死が待っていた。この読み方で合っているの?ゲームなんだからいいのかなと思いながらも、消化不良のまま終えるという不思議な読書体験だった。

 

えてみたら、津村記久子さんの本を読んだのはこれで11冊目だった。自分の気持ちにかなり近いところが多くて肩肘張らずに読めるというか、余計な雑念がなくて楽に読める。

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