書に耽る猿たち

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『ブラック・チェンバー・ミュージック』阿部和重|エンタメ感満載|オリンピック卓球女子、文学的解説者のこと

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『ブラック・チェンバー・ミュージック』阿部和重

毎日新聞出版 2021.7.29読了

 

ってました、阿部和重さん!新刊が出ると必ず読んでいる作家の1人。阿部和重さんと川上未映子さんのご夫婦は最強すぎる。今回の本は毎日新聞出版からということで珍しいと思ったのだが、そうだこれは新聞に連載されていたんだった。阿部さんの小説を連載するなんて、なかなかやるな。新聞向けの作品とは言えない気がするのだけど。

頭からトランプ大統領やら金正恩朝鮮労働党委員長らの名前が飛び交う。国際政治的な側面を含んだある男性の波瀾万丈なストーリー。執行猶予期間中で前科持ちの中年横口健二は、暴力団の知り合いから仕事を依頼される。

れがある資料の調査をするという極秘任務であった。言葉を喋れないハナコという不法滞在者も一緒についてきた。めまぐるしい怒涛の展開に目が離せない。関わる人たちは危ない奴らなんだけど、横口のあっけらかんとした性格と登場人物らの冗談めいた語り口のせいで、喜劇のようで笑みがこぼれる。

会図書館は知っていたが、「大宅壮一郎文庫」の存在は初めて知った。何やら雑誌の検索ができるようで、実際にググったらホームページまでしっかりしたものが存在する。でも神保町の熊倉書店はやはりなかった。私は関東に住んでいるため、神保町には年に3〜4回足を運ぶため気になってしまった。

やはや、伊坂幸太郎さんの作品に似てる。もしかしたら作者名が隠されていたら伊坂さんが書いたかと間違える人もいるのでは。少し前に共著で刊行していたしその頃から多少似てきたのだろうか。共著『キャプテンサンダーボルト』は実は私はあまり合わなかった。それぞれ単独で書いた作品は好きなのに、どうしてだろう。せっかくの個性がなりを潜めてしまうのか、中途半端な印象を受けた。エラリー・クイーンならまだしも、元々確固たる地位を築いていた小説家達が1つの作品を一緒に書き上げるのは難しいのだろうか。

もかく、阿部さんは年々エンタメ系に近付いているような気がする。それはそれでぐいぐい読ませるし、単純にストーリーとして夢中になれて良いのだけど、け、れ、ど、『シンセミア』『ピストルズ』には敵わないよなぁ、と思ってしまう。期待し過ぎてしまうのか…。ラストシーンはとても良かった。

 

リンピック、卓球女子シングルス3位決定戦を観ていたら解説者の表現に聞き入ってしまった。伊藤美誠選手がダイナミックな動きでポイントを取ると「伊藤は、蝶のように舞い、蜂のように刺す!」と言ったり「相手が反撃の狼煙をあげようとした刹那」と言ったり。なんて文学的な解説者なんだろう!

球女子個人では初のメダル獲得という快挙にも関わらず、伊藤美誠さんは悔し涙を流していた。彼女は観ている私たちとは次元の違うところにいて、まだまだ上を目指しているのだ。何かに悔しいと思って泣くことなんて、大人になってからはほとんどないよなぁ。

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