『夜はやさし』上下 フィツジェラルド 谷口陸男/訳
角川文庫 2021.8.9読了
フィツジェラルドさんの代表作は、言わずもがなで『グレート・ギャツビー』である。昔読んだ時にはあまりピンとこなかったのだが、最近再読したらとてもおもしろく読めた。次に有名なのは『ベンジャミン・バトン』だろうか。こちらはまだ未読だ。ブラット・ピット氏主演の映画は鑑賞している。
この『夜はやさし』は、彼の残した小説の中で1番長い長編である。同じはてなブログでブログを書いているSNOWLOG (id:SNOWLOG)さんからも薦められていたので読んでみたいと思っていた。
精神科医であるディックは、患者であるニコルと恋に落ちて結婚する。仲睦まじく、そして周りからも慕われて暮らしていたが、ローズマリーという女性が現れたことで彼の運命は変わっていく。自己破壊していく様が静かな筆致で描かれる。
医者が自分の患者と結婚すると、ずっと患者のように扱ってしまうのだろうか。医者からみると相手の病状をまた悪化させないように、どこか弱いものに触れるようにしてしまう心情が生まれてしまうのか。これはもしかすると教師と生徒という関係が夫婦になった場合も同じように言えるのかもしれない。
もちろん多くの夫婦は対等であるだろう。しかし場合によっては常に強者と弱者のような曖昧な関係性のまま生きていくことも在り得るのかもしれない。その絶妙な関係が敢えてうまくいく場合もあるだろう。
相手を探るような、駆け引きをするような会話が程よい緊張感を生む。そして、著者が読者に対しても何かを試しているかのようだ。著者フィツジェラルドさんの自伝的小説と言われているように、本人の運命に似かよっている。
やはりフィツジェラルドさんの作品は大人向けの小説のような気がしてならない。むしろ大人のための小説。作中に子供の気配がほとんどないことも理由にある。ディックとニコルには2人の子供がいるにも関わらずである。
それからまた、多分数回読み返してその良さがわかるだろうことも。もちろん独特の陰鬱な雰囲気と、落ち着いた文体は好みであるが、まだ自分自身が半分くらいしか理解していないように思う。数年後さらに歳を重ねてから読み返した時に、一層この作品の良さがわかる気がしてならない。