書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『生き物の死にざま』稲垣栄洋|自然界を懸命に生きる

f:id:honzaru:20210901071102j:image

『生き物の死にざま』稲垣栄洋

草思社 2021.9.2読了

 

日、家の中に入り込んできた蚊を掃除機で吸い込んだ。なかなか叩くチャンスがなく(本当は潰したくないけど家にいるのが気になる)、天井付近にいたのをなんとか仕留めた。蚊は掃除機の中で息絶えると思うが、生命力が強い虫は生きのびること、体内で卵を繁殖する能力を持つ場合は、自身が死んだとしても子孫を残す、つまり掃除機内で繁殖すると知りゾッとしたものだ。

の科学エッセイには、生き物がどのように生きるのかそしてどんな死にざなのかが書かれている。虫や魚、動物など全部で29種類。挿入されたイラストもリアルなのにかわいらしく描かれていて、動植物の身体を視覚的にも理解できる。

でも興味深かったのが2つある。仰向けになって死の最期を待つ「セミ」は、よく考えたら空を見ているわけではない。目は地面の方を向いているのである。死んだと思ったら突然羽ばたくのが不気味だからあまり近寄らないようにしていたが、この儚い最期を知ると、もう少し優しく見守ろうかという気になる。

う1つが、老化現象のない「ハダカデバネズミ」である。老いて死ぬ、という当たり前の現象がこのネズミには当てはまらないというなんとも奇妙な生き物だ。何かのアクシデントで死ぬという場合を除き、生き物は老衰するものかと思っていた常識を打ち砕かれた。

に向かう姿や懸命に生きる姿が、時にはユーモラスに、しかし哀愁を帯びた語り口によりしんみりとなる。私たち人間が我が物顔で地球にのさばっているけれど、実はちっぽけな存在であり、自然界にはたくさんの生き物がいる。そして、常に弱肉強食なのだと改めて思い知る。

れを読んでいると、子供の頃に夢中になった『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』が読みたくなってきた。内容はほぼ忘れているから、これを機会に読むのもいいかもしれない。

うそう、蚊についての記述といえば、家の中に入ってくる蚊「アカイエカ(赤家蚊)」、まさに今回掃除機に吸い込んだ蚊についての章があったのだ。人の血を吸うのはメスだけであるようで、我が子のための栄養分としてタンパク質が必要らしい。なんとかして家に忍び込み、命懸けで血を吸い、さらなる難関である家の外に出るという行為を果たさなくてはならない。

イオン、アリ、蜜蜂もそうだが、エサを取りにいくなど働くのはメスであることが多い。やはり、自然界でも女のほうが強いんだなと思ったり。家の中で蚊を見つけてもなんとかして叩いて始末してしまいたいが、どうにか私が気付かないまま出ていってくれと少しばかり願う。